※本記事は、長瀬産業株式会社 の有価証券報告書(第110期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月17日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 長瀬産業ってどんな会社?
化学品専門商社として国内トップクラスの規模を誇り、製造・加工機能も併せ持つ「技術・情報企業」です。
■(1) 会社概要
1832年に京都西陣で染料・澱粉の販売業として創業し、1917年に株式会社長瀬商店として発足しました。1970年に東京・大阪両証券取引所市場第一部銘柄に指定。2012年にバイオ関連の林原(現・ナガセヴィータ)を子会社化し、2019年には米国食品素材加工のPrinova Group LLCを持分取得するなど、製造・加工機能の強化とグローバル展開を推進しています。
連結従業員数は7,484名、単体では948名です。筆頭株主と第2位株主は、資産管理業務を行う信託銀行です。第3位は従業員持株会であり、安定した株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 12.58% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 6.40% |
| 長瀬産業自社株投資会 | 3.54% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性1名の計13名で構成され、女性役員比率は7.7%です。代表者は代表取締役社長執行役員の上島宏之氏です。社外取締役比率は23.1%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 朝倉 研二 | 代表取締役会長 | 1978年入社。自動車材料事業部長、執行役員を経て2015年代表取締役社長執行役員に就任。2023年4月より現職。 |
| 上島 宏之 | 代表取締役社長執行役員 | 1988年入社。経営企画部本部長、自動車材料事業部長などを歴任し、2022年取締役執行役員。2023年4月より現職。 |
| 池本 眞也 | 代表取締役副社長執行役員 | 1984年入社。自動車材料事業部長、名古屋支店長などを経て2023年代表取締役専務執行役員。2025年4月より現職。 |
| 鎌田 昌利 | 取締役常務執行役員 | 1985年入社。電子資材事業部長を経て2021年取締役執行役員。2024年4月より現職。加工材料、電子・エネルギー等を担当。 |
| 磯部 保 | 取締役執行役員 | 1992年入社。機能化学品事業部長を経て2024年6月より現職。機能素材、生活関連、開発等を担当。 |
| 長瀬 洋 | 取締役相談役 | 1977年入社。1999年代表取締役社長、2015年代表取締役会長を歴任。2023年4月より現職。 |
社外取締役は、野々宮律子(フーリハン・ローキー代表取締役CEO)、堀切功章(キッコーマン代表取締役会長)、神子柴寿昭(元本田技研工業取締役会長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「機能素材」「加工材料」「電子・エネルギー」「モビリティ」「生活関連」および「その他」事業を展開しています。
■機能素材
塗料・インキ、ウレタン、樹脂材料、界面活性剤などの原材料を、化学、電機、建築等の幅広い業界向けに提供しています。また、環境ソリューションやエレクトロニクス関連のケミカル製品も取り扱っています。
収益は、主に原材料や製品の販売対価として顧客から得ています。運営は、同社およびナガセケミカル、ナガセケムテックスなどのグループ会社が担っています。製造機能を持つ子会社が製品を供給し、商社機能を持つ同社等が販売を行う体制などが構築されています。
■加工材料
OA機器、家電、ゲーム、建材等の業界向けに、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、合成樹脂製品などを提供しています。
収益は、樹脂製品や材料の販売対価として顧客から得ています。運営は、同社および東拓工業、ナガセプラスチックスなどのグループ会社が行っています。顧客ニーズに合わせた加工や提案を行い、付加価値を提供しています。
■電子・エネルギー
半導体、電子部品、ディスプレイ、環境エネルギー等の業界向けに、変性エポキシ樹脂、半導体アセンブリ材料、ディスプレイ用部材などを提供しています。
収益は、材料や装置の販売対価として顧客から得ています。運営は、同社およびナガセケムテックス、長瀬電子材料(無錫)有限公司などが担っています。先端技術分野において、商社機能と製造・開発機能を組み合わせたソリューションを提供しています。
■モビリティ
自動車および関連業界向けに、合成樹脂、内外装用素材、機能部品、電動化用製品、センサー部品などを提供しています。
収益は、製品や素材の販売対価として顧客から得ています。運営は、同社および国内外のグループ会社が行っています。自動車の電動化や自動運転化に対応した高機能材料の提案・供給を行っています。
■生活関連
食品、医薬品、化粧品業界向けに、食品素材、医薬品原料、化粧品原料などを提供しています。また、最終消費者向けに化粧品や健康食品の販売も行っています。
収益は、素材や製品の販売対価として顧客から得ています。運営は、同社およびナガセヴィータ、Prinova Group LLC、ナガセビューティケァなどが担っています。特にPrinovaグループやナガセヴィータは製造・加工機能を有し、グローバルに事業を展開しています。
■その他
上記報告セグメントに含まれない事業として、グループ各社に対する情報処理サービスや物流サービス、職能サービスなどを提供しています。
収益は、サービスの提供対価としてグループ会社等から得ています。運営は、ナガセ情報開発やセンコーナガセ物流(持分法適用会社)などが担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 6,252億円 | 7,806億円 | 9,129億円 | 9,001億円 | 9,450億円 |
| 経常利益 | 229億円 | 365億円 | 325億円 | 306億円 | 384億円 |
| 利益率(%) | 3.7% | 4.7% | 3.6% | 3.4% | 4.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 188億円 | 259億円 | 236億円 | 224億円 | 255億円 |
直近5期間において、売上高は増加傾向にあり、特に2021年3月期から2023年3月期にかけて大きく伸長しました。2024年3月期は一時的に減少しましたが、2025年3月期には過去最高の9,450億円に達しています。利益面でも2025年3月期は増益となり、回復基調を示しています。
■(2) 損益計算書
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 9,001億円 | 9,450億円 |
| 売上総利益 | 1,647億円 | 1,813億円 |
| 売上総利益率(%) | 18.3% | 19.2% |
| 営業利益 | 306億円 | 391億円 |
| 営業利益率(%) | 3.4% | 4.1% |
売上高の増加に伴い、売上総利益および営業利益が増加しました。売上総利益率は前年の18.3%から19.2%へ改善しています。営業利益率も向上しており、収益性の改善が見られます。
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料及び手当が472億円(構成比33%)、その他経費が523億円(同37%)を占めています。売上原価については、商品および製品の仕入コスト等が大半を占めています。
■(3) セグメント収益
半導体関連ビジネスが好調な電子・エネルギーセグメントや、円安効果等により機能素材セグメントが増収増益となりました。生活関連セグメントは増収ながら、貸倒引当金繰入額等の計上により減益となりました。全セグメントで売上高は前年並みか増加しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 機能素材 | 1,468億円 | 1,537億円 | 62億円 | 92億円 | 6.0% |
| 加工材料 | 1,985億円 | 2,106億円 | 53億円 | 67億円 | 3.2% |
| 電子・エネルギー | 1,448億円 | 1,613億円 | 89億円 | 123億円 | 7.6% |
| モビリティ | 1,321億円 | 1,321億円 | 36億円 | 42億円 | 3.2% |
| 生活関連 | 2,778億円 | 2,871億円 | 80億円 | 34億円 | 1.2% |
| その他 | 1億円 | 1億円 | 1億円 | 2億円 | 236.6% |
| 調整額 | - | - | 5億円 | 5億円 | - |
| 連結(合計) | 9,001億円 | 9,450億円 | 306億円 | 391億円 | 4.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業の営業活動で得た資金を、設備投資や借入返済、株主還元に充てており、財務基盤の健全性を維持しつつ成長投資を行っている「健全型」のキャッシュ・フロー状態と言えます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 730億円 | 363億円 |
| 投資CF | -116億円 | -116億円 |
| 財務CF | -480億円 | -182億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.4%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は49.4%で市場平均(プライム市場・非製造業)を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「社会の構成員たることを自覚し、誠実に正道を歩む活動により、社会が求める製品とサービスを提供し、会社の発展を通じて、社員の福祉の向上と社会への貢献に努める。」という経営理念を掲げています。また、2032年(創業200年)のありたい姿として「温もりある未来を創造するビジネスデザイナー」を制定しています。
■(2) 企業文化
同社は「誠実正道」の精神を重視し、すべてのステークホルダーに対して誠実に向き合う姿勢を大切にしています。また、「見つけ、育み、拡げる」というビジョンのもと、社員一人ひとりが日々の活動を通じて社会課題の解決に貢献することを目指しています。サステナビリティ基本方針を策定し、経済価値と社会価値の両立を追求する風土があります。
■(3) 経営計画・目標
2032年のありたい姿からバックキャスティングし、5ヶ年の中期経営計画「ACE 2.0」を策定しています。最終年度である2025年度に向けて「質の追求」を掲げ、以下の定量目標を設定しています。
* ROE:8.0%以上
* 営業利益:350億円以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「ACE 2.0」では、「収益構造の変革」と「企業風土の変革」を推進しています。事業を「基盤」「注力」「育成」「改善」の4領域に分類し、リソースの再配分を行っています。特に注力領域であるフード、半導体、ライフサイエンス分野においては、製造機能の強化やM&Aを通じた成長を図ります。また、DXの加速やサステナビリティ推進を機能として強化し、持続的な成長基盤を構築します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「ACE 2.0」の実現に向け、「変革」をリードするイノベーティブでグローバルな人財の育成を目指しています。役割・職務の明確化と処遇の連動性を高める人事制度改定を行い、ダイナミックな人材配置や高度専門人材の確保を進めています。また、D&Iの推進や従業員エンゲージメントの向上にも注力し、誰もが創造性高く働ける環境整備に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 41.3歳 | 14.8年 | 11,365,000円 |
※平均年間給与は、賞与および基準外賃金を含めております。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.2% |
| 男性育児休業取得率 | 64.1% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 53.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 53.2% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 48.5% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントサーベイトータルスコア(58.3)、エンゲージメントサーベイ回答率(98%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 気候変動に係るリスク
気候変動対策に関する政策・法規制への対応遅れや、脱炭素等の消費者選好の変化に対応できない場合、ビジネス機会の喪失やレピュテーション低下のリスクがあります。また、大規模自然災害によるサプライチェーン寸断や販売・生産活動の停滞が、経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 社会的な要求に関するリスク
人権や環境など社会的な要求への対応が遅れたり不足したりした場合、レピュテーションの毀損やサプライチェーンからの排除につながり、事業機会を喪失する恐れがあります。サプライチェーン上で人権・環境問題が発生した場合も同様のリスクがあります。
■(3) 為替変動に係るリスク
グローバルに事業を展開しているため、輸出入や貿易外取引における外貨建て取引、および海外現地法人の財務諸表の円換算において、為替変動の影響を受けます。為替予約等によるヘッジを行っていますが、急激な変動は業績に影響を与える可能性があります。
■(4) 社会・経済環境の変化に関するリスク
景気後退や業界再編、少子高齢化による市場縮小、消費行動の変化などの外部環境の変化が、同社グループの競争力や業績に影響を及ぼす可能性があります。特に日本、中国、韓国などの重要市場における環境変化や、変化の予兆を見逃すことはリスク要因となります。



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