※本記事は、長瀬産業の有価証券報告書(第111期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月16日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 長瀬産業ってどんな会社?
化学品や電子材料などの輸出入・国内取引を基盤とし、自社での製造や研究開発も手がける化学系商社です。
■(1) 会社概要
1832年に京都西陣で染料や澱粉などを販売する鱗形屋として創業しました。1893年に大阪支店、1911年に東京支店を開設し、1917年に長瀬商店として発足しました。1943年に現在の長瀬産業に商号を変更し、1964年に大阪証券取引所市場第二部へ上場、1970年には東京・大阪両証券取引所市場第一部銘柄に指定されています。近年は米国Prinova Group LLCなどの買収を通じ、グローバルな事業基盤の拡大を進めています。
同社グループは連結で7,756名、単体で942名の従業員を擁し、グローバルな事業活動を推進しています。大株主の構成を見ると、筆頭株主は日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位も日本カストディ銀行(信託口)となっており、信託銀行等の機関投資家が上位を占めています。第3位には従業員等の資産形成を目的とした長瀬産業自社株投資会が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 11.71% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 6.24% |
| 長瀬産業自社株投資会 | 4.46% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性1名の計13名で構成され、女性役員比率は7.7%です。代表取締役社長執行役員は上島宏之氏が務めています。役員全体に占める社外取締役の比率は23.1%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 朝倉研二 | 代表取締役会長 | 1978年同社入社。自動車材料事業部長、代表取締役社長執行役員などを経て、2023年より現職。 |
| 上島宏之 | 代表取締役社長執行役員 | 1988年同社入社。経営企画部本部長、自動車材料事業部長などを経て、2023年より現職。 |
| 鎌田昌利 | 取締役専務執行役員 | 1985年同社入社。電子資材事業部長、取締役常務執行役員などを経て、2026年より現職。 |
| 磯部保 | 取締役執行役員 | 1992年同社入社。機能化学品事業部長などを経て、2026年より現職。 |
| 清水義久 | 取締役執行役員 | 1987年同社入社。情報システム部本部長、財務経理部本部長を経て、2025年より現職。 |
| 長瀬洋 | 取締役相談役 | 1977年同社入社。代表取締役社長、代表取締役会長などを経て、2023年より現職。 |
社外取締役は、野々宮律子(元日本GE専務執行役員)、堀切功章(キッコーマン代表取締役会長)、神子柴寿昭(元本田技研工業取締役会長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「機能素材」「加工材料」「電子・エネルギー」「モビリティ」「生活関連」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 機能素材
塗料・インキ、樹脂、ウレタンフォームなどの幅広い業界に向け、樹脂原料や各種添加剤などの商品をグローバルに提供しています。また、化学品AI共同物流マッチングサービスや水処理装置など、独自性のあるソリューションも展開し、多様な顧客ニーズに対応しています。
商品の販売やサービスの提供による販売代金を主な収益源としています。事業の運営は同社のほか、ナガセケムテックスや福井山田化学工業などのグループ会社が連携して行い、顧客に対する付加価値の最大化を図っています。
■(2) 加工材料
家電OA機器、電子、包材、日用品から土木建材まで、幅広い産業分野に対して、プラスチックコンパウンドやエンジニアリングプラスチック、汎用プラスチックなどの商品を提供しています。
樹脂成型品や包装資材などの販売代金が主要な収益源となります。事業の運営は同社に加え、ナガセルータックやナガセプラスチックスなどの関連会社が担い、各社の専門性を生かした販売・製造ネットワークを構築しています。
■(3) 電子・エネルギー
半導体、電子部品、環境エネルギー、ディスプレイなどの最先端業界向けに、変性エポキシ樹脂、精密研磨材料、半導体用フォトリソグラフィー材料などを提供し、次世代技術の発展を支えています。
半導体関連材料や電子デバイス関連装置の販売、電池評価・コンサルティングサービスの提供等による対価が収益源です。運営は同社を中心に、ナガセケムテックスや海外子会社の長瀬賽創(無錫)新材料有限公司などが手がけています。
■(4) モビリティ
自動車やモビリティ全般の業界に向けて、各種樹脂、機能性塗料、軽量化部品、xEV関連部品、自動運転関連技術などの最先端マテリアルおよび部品を提供し、モビリティの進化に貢献しています。
各種材料や部品の販売代金を収益源としています。同社が中心となり、国内外の幅広いネットワークを活用して事業を運営しており、電動化や軽量化といったモビリティ特有の技術課題に対するソリューションを顧客に提供しています。
■(5) 生活関連
医薬、食品・飲料、化粧品、農業などの分野へ、医薬品原料や食品素材、酵素、プレミックス等を提供しています。近年はナガセダイアグノスティックスを設立し、診断薬分野にも事業領域を広げています。
食品素材や化粧品原料、医薬品等の販売代金が主な収益源です。事業の運営は同社に加え、ナガセヴィータ、Prinova Group LLC、ナガセダイアグノスティックスなどのグループ各社が国内外で強力に推進しています。
■(6) その他
報告セグメントに含まれない事業として、情報処理サービスや職能サービスなどを展開し、グループ全体の事業基盤をサポートしています。
サービスの提供に伴う手数料や業務委託料などが収益源となります。同社や関連するグループ会社が連携し、グループ各社の効率的な業務運営や専門的かつ付加価値の高いサポート機能を提供しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
同社の業績は直近5期間を通じて堅調に推移しています。2022年3月期から2026年3月期にかけて売上高は7,000億円台から9,000億円台後半へと着実に拡大し、経常利益も400億円台に到達するなど、収益力の向上が見られます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 7806億円 | 9129億円 | 9001億円 | 9450億円 | 9728億円 |
| 経常利益 | 365億円 | 325億円 | 306億円 | 384億円 | 441億円 |
| 利益率(%) | 4.7% | 3.6% | 3.4% | 4.1% | 4.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 259億円 | 236億円 | 224億円 | 255億円 | 331億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前年比で増加し、それに伴い売上総利益も拡大しています。一部の製造子会社における収益性の向上等が寄与し、営業利益も堅調に伸びており、本業の稼ぐ力が高まっていることが伺えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 9450億円 | 9728億円 |
| 売上総利益 | 1733億円 | 1877億円 |
| 売上総利益率(%) | 18.3% | 19.3% |
| 営業利益 | 391億円 | 447億円 |
| 営業利益率(%) | 4.1% | 4.6% |
販売費及び一般管理費のうち、役務委託費が85億円(構成比6%)、従業員給料が64億円(同5%)を占めています。売上原価は7851億円で、売上高に対する構成比は約81%となっています。
■(3) セグメント収益
各セグメントともに堅調な推移を見せています。特に生活関連セグメントは、食品素材事業の製造原価低減やマーケットシェア拡大により収益が大きく伸びました。電子・エネルギーセグメントも半導体関連や装置販売が好調で増収を牽引しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 機能素材 | 1537億円 | 1536億円 |
| 加工材料 | 2106億円 | 2067億円 |
| 電子・エネルギー | 1613億円 | 1729億円 |
| モビリティ | 1321億円 | 1303億円 |
| 生活関連 | 2871億円 | 3092億円 |
| その他 | 1.0億円 | 0.9億円 |
| 連結(合計) | 9450億円 | 9728億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業活動で得た資金で借入の返済や事業投資を賄う「健全型」の傾向を示しています。本業からの安定したキャッシュ創出力を背景に、設備投資やM&Aなどの成長投資を積極的に行いながらも、財務の健全性を維持していることが伺えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 363億円 | 478億円 |
| 投資CF | -116億円 | -465億円 |
| 財務CF | -182億円 | -254億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は48.8%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「社会の構成員たることを自覚し、誠実に正道を歩む活動により、社会が求める製品とサービスを提供し、会社の発展を通じて、社員の福祉の向上と社会への貢献に努める」を経営理念に掲げています。また、ありたい姿として「マテリアルを通じて、お客様と社会の課題を解決し、「ひと」と「地球」のウェルビーイングに貢献するNAGASE」を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は持続的な企業価値向上のため、「誠実な事業活動」「社会との良好な関係」「環境への配慮」を基本とするサステナビリティ基本方針を定めています。多様なバックグラウンドを持つ人材が自分らしく挑戦できる風土を重視し、「A(主体性)」「C(必達)」「E(効率性)」のマインドを持つことで、経済価値と社会価値の追求を両立させる文化を育んでいます。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2028年度を最終年度とする新中期経営計画「Walk the Talk 2028」において、早期の時価総額1兆円達成を見据えた基盤づくりを進めています。最終年度の財務KGIとして以下の目標を掲げています。
* 営業利益:500億円以上
* ROE:9.0%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
従来のセグメントを「マテリアル」「エレクトロニクス」「ライフサイエンス」の3分野に再編し、収益性の高いエレクトロニクスやライフサイエンスへ資本を重点配分します。商社・製造・研究の3機能を活用したユニークネスの創出を推進し、ROIC(投下資本利益率)経営を徹底することで、資本効率を意識した収益構造への転換を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、「ひと」を最重要の経営資源と位置づけています。激しい環境変化の中で変革をリードできる人材を育成するため、複雑な要素を統合し構想から実現まで推進するプロジェクトエンジニアと、グループ全体を俯瞰し強みを調和させるビジネスオーケストレーターという2種類のリーダー育成を推進し、個の力と組織力を強化する方針です。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.2歳 | 14.7年 | 11,901,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.6% |
| 男性育児休業取得率 | 74.2% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 57.9% |
| 男女賃金差異(正規労働者) | 58.9% |
| 男女賃金差異(非正規労働者) | 37.4% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントサーベイ実施割合(100%)、エンゲージメントサーベイスコア(61.7)、自社株投資会への加入率(90.3%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 気候変動に係るリスク
気候変動に関する政策や法規制の変化により、環境負荷の高い商材の取り扱いが減少する可能性があります。また、大規模な自然災害によるサプライチェーンの寸断や生産活動の停滞が生じた場合、同社の経営成績に重大な影響を及ぼすおそれがあります。同社はカーボンニュートラル宣言を策定し、環境負荷の低減に取り組んでいます。
■(2) 社会的な要求に関するリスク
サプライチェーン上の人権・環境問題など、社会的な要求に対する対応が遅れた場合、レピュテーションの毀損やサプライチェーンからの排除を招き、事業機会を喪失するリスクがあります。同社は人権基本方針やサプライチェーンマネジメント方針を策定し、自然資本への配慮と環境負荷の最小化に努めています。
■(3) 競争優位性喪失に関するリスク
競合他社の台頭やイノベーションの進展により、同社グループが取り扱う製品やサービスの競争優位性が失われ、市場シェアが縮小するリスクがあります。同社は顧客の需要変化に対して常に情報収集を行い、仕入先の拡充や新規サービスの開発、海外戦略の最適化などを通じて競争力の維持・強化に努めています。
■(4) 情報システムおよび情報セキュリティに関するリスク
サイバー攻撃やコンピューターウイルスの感染により、ネットワークやシステムに障害が発生した場合、業務の中断や機密情報の漏洩が生じるリスクがあります。同社は情報セキュリティレベルの確保を重要事項と位置づけ、関連規程の整備や従業員教育、セキュリティベンダーの活用等により体制を強化しています。



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