東日本旅客鉄道 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東日本旅客鉄道 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場の同グループは、鉄道を中心とした運輸事業に加え、駅スペースを活用した流通・サービス、不動産・ホテル事業などを展開しています。2025年3月期の連結業績は、鉄道利用の回復やインバウンド需要の増加等により、すべてのセグメントで増収となり、全体でも増収増益を達成しました。


※本記事は、東日本旅客鉄道株式会社 の有価証券報告書(第38期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 東日本旅客鉄道ってどんな会社?


関東・東北地方を中心とした鉄道ネットワークを基盤に、生活サービスやSuica事業なども展開する企業グループです。

(1) 会社概要


1987年に国鉄の分割民営化により設立され、鉄道事業等を開始しました。1991年に東北・上越新幹線施設を譲り受け、1993年に株式上場を果たしました。2001年にSuicaサービスを開始し、2002年には完全民営化を実現しました。2024年には不動産事業の加速を目的にJR東日本不動産を設立しています。

2025年3月31日現在の連結従業員数は69,559人(単体39,660人)です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位は同様に資産管理を行う日本カストディ銀行、第3位は同グループの従業員で構成される社員持株会となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 14.51%
株式会社日本カストディ銀行(信託口) 4.23%
JR東日本グループ社員持株会 3.95%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性5名(河本宏子、伊藤敦子、野田由美子、天谷知子、中川晴美)の計16名で構成され、女性役員比率は31.3%です。代表取締役社長は喜㔟陽一氏が務めています。なお、社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
深 澤 祐 二 取締役会長 1978年日本国有鉄道入社。同社人事部長、常務取締役、代表取締役副社長等を経て、2018年代表取締役社長に就任。2024年4月より現職。
喜 㔟 陽 一 代表取締役社長 1989年入社。人事部長、総合企画本部長、事業創造本部長、マーケティング本部長等を歴任し、代表取締役副社長を経て、2024年4月より現職。
伊 勢 勝 巳 代表取締役副社長社長補佐(全般)、イノベーション戦略本部長 1988年入社。鉄道事業本部設備部長、常務執行役員等を経て、2021年代表取締役副社長に就任。2022年6月より現職。
渡 利 千 春 代表取締役副社長社長補佐(全般)、鉄道事業本部長、安全統括管理者 1988年入社。北海道旅客鉄道常務取締役等を経て、2022年同社常務取締役に就任。2023年6月より現職。
伊 藤 敦 子 常務取締役グループ経営戦略本部長 1990年入社。執行役員財務部長、総合企画本部経営企画部長等を経て、2021年常務取締役に就任。2023年6月より現職。
中 川 晴 美 常務取締役マーケティング本部長、品川開発担当、地方創生担当、観光担当、人財戦略部担当 1991年入社。執行役員千葉支社長、常務執行役員鉄道事業本部副本部長等を経て、2024年6月より現職。
内 田 英 志 常務取締役鉄道事業本部副本部長(運輸車両)、安全企画部担当 1992年入社。執行役員八王子支社長等を経て、2024年6月より現職。
大 橋 弘 取締役 2012年東京大学大学院経済学研究科教授。同大学公共政策大学院院長等を経て、2022年東京大学副学長。2024年6月より現職。
樹 下 尚 取締役常勤監査等委員 1985年警察庁入庁。福岡県警察本部長、警察庁刑事局長等を歴任。2019年同社常勤監査役に就任し、2023年6月より現職。
小 縣 方 樹 取締役常勤監査等委員 1974年日本国有鉄道入社。同社代表取締役副社長、取締役副会長等を歴任。2023年6月より現職。


社外取締役は、河本宏子(ANA総合研究所顧問)、岩本敏男(NTTデータ相談役)、野田由美子(ヴェオリア・ジャパン会長)、大橋弘(東京大学副学長)、森公高(森公認会計士事務所所長)、小池裕(元最高裁判所判事)、天谷知子(元金融国際審議官)です。

2. 事業内容


同社グループは、「運輸事業」「流通・サービス事業」「不動産・ホテル事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) 運輸事業


鉄道事業を中心とした旅客運送のほか、旅行業、清掃整備、駅業務運営、設備工事、車両製造・メンテナンス等を行っています。関東・東北地方の1都16県に及ぶ広範な鉄道ネットワークを有し、新幹線や在来線を運行しています。

運賃・料金収入を主な収益源とし、旅行商品の販売や車両製造等の収益も得ています。運営は主に同社が行うほか、ジェイアールバス関東等のバス会社や東京モノレール、総合車両製作所などのグループ会社が担っています。

(2) 流通・サービス事業


駅スペース等を活用した小売・飲食業、卸売業、貨物自動車運送事業、広告代理業などを展開し、生活サービスを提供しています。駅構内の店舗運営や商品の卸売、広告媒体の管理などが含まれます。

商品販売収入や飲食代金、広告料などが主な収益源です。運営は、JR東日本クロスステーション(小売・飲食)、JR東日本商事(卸売)、ジェイアール東日本物流(貨物運送)、ジェイアール東日本企画(広告)などが担当しています。

(3) 不動産・ホテル事業


ショッピングセンターの運営、オフィスビルの貸付、ホテル運営、およびこれらに関連する不動産の開発・販売を行っています。駅ビルや駅周辺の商業施設、ホテルチェーンなどを展開しています。

テナントからの賃貸収入やホテル宿泊料、不動産販売収入などが収益源です。ルミネ、アトレ(SC運営)、JR東日本ビルディング(オフィス)、日本ホテル(ホテル)、JR東日本不動産(開発)などが運営を行っています。

(4) その他


クレジットカード事業やSuicaに関するIT事業、情報処理業などを展開しています。Suicaを中心とした決済サービスやシステム開発などが含まれます。

カード年会費や決済手数料、システム開発受託料などが収益源です。ビューカード(カード事業)、JR東日本メカトロニクス(IT・Suica)、JR東日本情報システム(情報処理)などが運営しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2021年3月期から2025年3月期にかけて、売上収益は回復傾向にあり、特に直近ではコロナ禍の影響からの持ち直しが見られます。利益面でも、2021年3月期は大幅な赤字でしたが、その後黒字転換し、直近期では利益率も改善しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上収益(または売上高) 17,646億円 19,790億円 24,055億円 27,301億円 28,876億円
税引前利益 / 経常利益 / 営業利益 -5,798億円 -1,795億円 1,109億円 2,966億円 3,216億円
利益率(%) -32.9% -9.1% 4.6% 10.9% 11.1%
当期利益(親会社所有者帰属) -5,066億円 -992億円 524億円 1,467億円 1,526億円

(2) 損益計算書


直近2期間において、売上収益は増加しており、営業利益および営業利益率も改善傾向にあります。売上総利益についてはデータがありませんが、営業収益の増加が利益の押し上げに寄与しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 27,301億円 28,876億円
売上総利益 - -
売上総利益率(%) - -
営業利益 3,452億円 3,768億円
営業利益率(%) 12.6% 13.0%


販売費及び一般管理費のうち、経費が2,799億円(構成比43%)、人件費が2,480億円(同38%)を占めています。

(3) セグメント収益


全てのセグメントで増収増益となりました。運輸事業は鉄道利用の回復により増収、流通・サービス事業や不動産・ホテル事業も利用増や店舗売上の増加により好調に推移しました。その他事業もシステム受託開発の増加等により増収となっています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
運輸事業 18,516億円 19,458億円 - - -
流通・サービス事業 3,693億円 3,938億円 - - -
不動産・ホテル事業 4,181億円 4,454億円 - - -
その他 911億円 1,026億円 - - -
調整額 -28,152億円 -32,191億円 - - -
連結(合計) 27,301億円 28,876億円 - - -

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFはプラス、投資CFはマイナス、財務CFはプラスで、営業で得た資金と借入等の調達資金を投資に回す「積極型」です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 6,881億円 7,323億円
投資CF -6,906億円 -7,834億円
財務CF 661億円 37億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は28.1%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「究極の安全」を第一に行動し、グループ一体で顧客の信頼に応えること、および技術と情報を中心にネットワークの力を高め、すべての人の心豊かな生活を実現することを経営の基本方針(グループ理念)としています。

(2) 企業文化


安全を経営のトッププライオリティと位置づけ、「ヒト起点」の発想を進化させることを重視しています。利益をステークホルダーに還元しつつ未来の成長にも振り向ける「四方良しの経営」を推進し、社会の進運を支える「志の高い企業グループ」への進化をめざしています。

(3) 経営計画・目標


グループ経営ビジョン「変革 2027」において、2027年度をターゲットとした数値目標を設定しています。
* 連結営業収益:3兆2,760億円
* 連結営業利益:4,100億円
* 連結ROA:4.0%程度
* ネット有利子負債/EBITDA:中期的に5倍程度

(4) 成長戦略と重点施策


「変革 2027」の実現に向け、「安全」を最優先としつつ、「収益力向上」、「経営体質の抜本的強化」、「成長の基盤となる戦略の推進」、「ESG経営の実践」に取り組みます。具体的には、Suicaの機能向上や「TAKANAWA GATEWAY CITY」のまちづくり、鉄道メンテナンスの連携強化、新ビジネス戦略「Beyond the Border」によるビジネス圏拡大等を推進します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「多様性」「革新性」「柔軟性」の観点から、多様な人材が多様な価値を創造できるフィールドを充実させます。従来の働き方にとらわれない柔軟な発想での業務改革や、社員がボーダーを超えて挑戦できる環境の整備を進め、人的資本経営を推進します。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 39.2歳 16.6年 7,670,057円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 8.3%
男性育児休業取得率 71.9%
男女賃金差異(全労働者) 89.6%
男女賃金差異(正規労働者) 84.3%
男女賃金差異(非正規労働者) 64.9%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、採用者に占める女性比率(31.0%)、管理者に占める経験者採用比率(単体20.6%)、障がい者雇用率(2.51%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 鉄道事業における事故等の発生


鉄道事業において事故等が発生した場合、社会的信用の失墜や補償費用、事業中断等により経営に重大な影響を与える可能性があります。同社は安全をトッププライオリティとし、ハード・ソフト両面からの対策や「グループ安全計画2028」に基づく施策を推進しています。

(2) 気候変動及び自然災害等


集中豪雨や台風、地震等の自然災害により、鉄道施設等の損壊や大規模停電が発生し、運行不能となるリスクがあります。これに対し、耐震補強や早期地震検知システムの導入、雨量規制の強化、浸水対策などを進めるとともに、非常用電源の確保や調達先の分散化にも取り組んでいます。

(3) 感染症の発生等


重大な感染症の流行により経済活動の制限や利用者の減少が生じた場合、業績に多大な影響を与える可能性があります。過去の経験を踏まえ、消毒や換気、混雑情報の提供などの感染防止策を講じるとともに、政府・自治体と連携しつつ適切な輸送の確保に努めます。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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