日立製作所 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

日立製作所 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京および名古屋市場に上場する日立製作所は、デジタルシステムやエネルギー、モビリティ、産業機器など幅広い社会インフラ事業をグローバルに展開しています。Lumadaを中心としたデジタルサービスの拡大やパワーグリッド需要の取り込みが奏功し、直近の業績トレンドは増収増益と力強い成長を見せています。


※本記事は、株式会社日立製作所の有価証券報告書(第157期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. 日立製作所ってどんな会社?


同社は、ITと制御・運用技術、高品質なプロダクトを掛け合わせ、社会インフラを革新する事業を世界中で展開しています。

(1) 会社概要


日立製作所は1910年に久原鉱業所日立鉱山付属の修理工場として発足し、1920年に独立しました。2003年に委員会等設置会社(現在の指名委員会等設置会社)へ移行し、コーポレートガバナンスを強化しました。2016年にはビジネスユニット制を導入し、2021年にスイスABB社からパワーグリッド事業を取得してHitachi Energy Ltdを設立しました。2024年にはThales社の鉄道信号関連事業を買収するなど、グローバルな事業拡大を続けています。

現在の従業員数は連結で287,901名、単体で25,934名にのぼります。大株主については、筆頭株主が資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)であり、第2位および第3位も同様に金融機関の信託口やカストディアンが名を連ねており、機関投資家による保有割合が高い構成となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 16.50%
日本カストディ銀行(信託口) 5.53%
ステート ストリート バンク アンド トラスト カンパニー 505001 3.28%

(2) 経営陣


同社の役員は男性38名、女性7名の計45名で構成され、女性役員比率は16.0%です。代表執行役執行役社長兼CEOは德永俊昭氏が務めています。取締役11名のうち社外取締役が8名おり、社外取締役比率は72.7%と極めて高い水準です。

氏名 役職 主な経歴
德永俊昭 取締役報酬委員 代表執行役執行役社長兼CEO統括 1990年に入社し、情報・通信システム社サービス事業本部の本部長や日立アプライアンス取締役社長を歴任。2021年に執行役副社長となり、2025年より現職。
東原敏昭 取締役会長指名委員 代表執行役取締役会長全般 1977年に入社し、情報・通信グループCOOや日立プラントテクノロジー代表取締役社長を歴任。2016年に代表執行役社長兼CEOに就任し、2022年より現職。
阿部淳 代表執行役執行役副社長社長補佐 デジタルシステム&サービス事業担当 1984年に入社し、サービス&プラットフォームビジネスユニット制御プラットフォーム統括本部長や執行役専務を歴任。2024年より現職。
加藤知巳 代表執行役執行役専務 財務戦略、年金、リスクマネジメント等担当 1986年に入社し、財務統括本部グループ財務戦略本部長兼投融資戦略本部アセットマネジメント室長等を歴任。2024年より現職。
長谷川雅彦 代表執行役執行役専務 マーケティング・営業戦略、地域戦略統括等担当 1987年に入社し、関西支社長や執行役常務を歴任。2022年より現職。
松村祐土 代表執行役執行役常務 法務、コンプライアンス戦略等担当 1998年に弁護士登録後、森綜合法律事務所に入所。同事務所のマネージングパートナーを経て、2024年に執行役常務として入社。2025年より現職。
西山光秋 取締役監査委員長(常勤) 1979年に入社し、財務一部長や日立電線取締役等を歴任。日立金属代表執行役社長兼CEOを経て、2023年より現職。


社外取締役は、井原勝美(元ソニー副社長)、桜井恵理子(元ダウ・ケミカル日本社長)、菅原郁郎(元経済産業事務次官)、西島剛志(元横河電機社長)、ヘルムート・ルートヴィッヒ(元Siemens Industry社長)、山本高稔(元モルガン・スタンレー証券副会長)、ラヴィ・ヴェンカテイサン(元Microsoft India会長)、イザベル・デシャン(Rio Tinto役員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「デジタルシステム&サービス」「エナジー」「モビリティ」「コネクティブインダストリーズ」および「その他」事業を展開しています。

デジタルシステム&サービス

システムインテグレーションやクラウドサービス、ITプロダクツ、ソフトウェア、ATMなどを提供しており、幅広い業界の企業のDX推進や業務効率化を支援しています。
主に顧客企業からのシステム開発費やクラウド利用料、コンサルティングフィーとして収益を得ています。運営は同社のほか、日立ソリューションズや日立システムズ、GlobalLogic Worldwide Holdingsなどのグループ各社が行っています。

エナジー

脱炭素社会の実現に向け、パワーグリッドや原子力などのエネルギーソリューションを提供しており、世界中のクリーンエネルギー導入拡大や電力網の整備を支援しています。
電力会社やインフラ事業者からの発電システムや電力網設備の導入費用、および保守サービス料が主な収益源です。運営は同社のほか、日立GEベルノバニュークリアエナジーやHitachi Energyなどのグループ各社が行っています。

モビリティ

世界的な都市化や環境負荷低減のニーズに応えるため、鉄道車両の製造から信号・運行管理システム、デジタルサービスまでを融合した鉄道ソリューションを提供しています。
国内外の鉄道事業者からのシステム導入費用や車両販売代金、継続的なアセットマネジメントによるサービス料で収益を得ています。運営は主にHitachi Railなどの子会社が行っています。

コネクティブインダストリーズ

ビルシステム、家電や空調などの生活・エコシステム、産業機器、計測分析システムなどを提供し、現場のデータとAIを掛け合わせた次世代ソリューションを展開しています。
事業者や一般消費者からの製品販売代金や、エレベーター等の保守・運用最適化による継続的なサービス料から収益を得ています。運営は同社や日立ビルシステム、日立ハイテクなどが行っています。

その他

不動産の管理・売買・賃貸事業や、海外における地域統括業務などを通じて、グループ全体の事業基盤をサポートしています。
不動産の賃貸料や管理手数料などから収益を得ています。運営は日立リアルエステートパートナーズや、Hitachi America、Hitachi Asiaなどの各地域統括会社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績は、M&Aや事業ポートフォリオの再編を推進しながらも、売上収益は9兆円から10兆円規模を維持し、利益率は着実に改善しています。特に直近ではLumada事業の成長やパワーグリッド需要の取り込みにより、増収増益の力強い成長を達成しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 102646億円 108812億円 97287億円 97834億円 105868億円
税引前利益 8393億円 8200億円 8258億円 9627億円 12731億円
利益率(%) 8.2% 7.5% 8.5% 9.8% 12.0%
当期利益(親会社所有者帰属) 5835億円 6491億円 5899億円 6157億円 8024億円

(2) 損益計算書


売上高は増加傾向にあり、売上総利益も連動して拡大しています。付加価値の高いデジタルサービスの比率が高まったことで、売上総利益率も改善を見せており、安定した収益基盤が構築されています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 97834億円 105868億円
売上総利益 5682億円 6210億円
売上総利益率(%) 5.8% 5.9%


販売費及び一般管理費のうち、外注経費が1,013億円(構成比25%)、給料諸手当が822億円(同20%)を占めています。売上原価は1兆2,222億円であり、事業構造の転換に伴う研究開発費や外注費への投資が継続されています。

(3) セグメント収益


主力のデジタルシステム&サービスやエナジーが堅調に推移し、全社の増収を牽引しました。一方、コネクティブインダストリーズは中国のビルシステム需要の減少等の影響を受けて減収となりましたが、全体としては各セグメントが強みを発揮しています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
デジタルシステム&サービス 28326億円 29401億円
エナジー 26270億円 32200億円
モビリティ 11714億円 13216億円
コネクティブインダストリーズ 32803億円 32628億円
その他 4975億円 5311億円
調整額 -6254億円 -6887億円
連結(合計) 97834億円 105868億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業活動で十分な資金を稼ぎ出し、その資金で投資を行いながら借入金の返済も進める、理想的な健全型のキャッシュ・フロー状況です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 11722億円 16681億円
投資CF -5737億円 -3416億円
財務CF -4241億円 -9710億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は12.9%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は57.0%で、いずれも市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


日立製作所は創業以来、「優れた自主技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」ことを企業理念として掲げています。社会インフラを支える技術と製品の開発によって世界中の社会課題を解決し、環境、人々の幸福、経済成長が調和するハーモナイズドソサエティの実現に貢献することを使命としています。

(2) 企業文化


激変する経営環境においても柔軟かつ迅速に対応するため、グループ一体となって独自の価値を創出する「真のOne Hitachi」の文化を重視しています。また、サステナビリティを事業戦略の中核に据えた「サステナブル経営」を実践し、多様な視点を取り入れたインクルーシブな組織風土の醸成に取り組んでいます。

(3) 経営計画・目標


経営計画「Inspire 2027」を掲げ、デジタルを軸とした企業変革により持続的な成長を実現することを目標としています。長期的にはLumada事業の売上収益比率80%をめざす「Lumada 80-20」を設定し、規律あるキャピタルアロケーションを通じて企業価値向上を図ります。

・売上収益年成長率(CAGR):7〜9%
・Adjusted EBITA率:13〜15%
・キャッシュフローコンバージョン:90%超
・投下資本利益率(ROIC):12〜13%

(4) 成長戦略と重点施策


社会インフラの現場データとAIを掛け合わせた次世代ソリューション群「HMAX」の展開を加速し、Lumada事業をグループ全体の成長エンジンとして拡大させます。さらに、グローバル自律分散型経営を推進して各地域の事業機会を的確に捉えるとともに、AI活用による社内改革と人的資本の強化に注力します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


人こそが価値の源泉であるとの考えのもと、「タレントマネジメント」「トータルリワード」「One HRプラットフォーム」の3つを重点領域とするグローバル人財戦略を推進しています。職務に基づくジョブ型人財マネジメントを通じて適材適所の配置と流動化を促し、持続的な成長を牽引する次世代リーダーやAIプロフェッショナル人財の育成に注力しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 42.2歳 18.1年 9,949,714円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 8.9%
男性育児休業取得率 94.5%
男女賃金差異(全従業員) 71.6%
男女賃金差異(正規) 72.8%
男女賃金差異(非正規) 59.3%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、AIプロフェッショナル人財数(約39,000人)、従業員成長マインドセットスコア(69.2ポイント)、従業員エンゲージメントスコア(73.3ポイント)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 経済環境に係るリスク

グローバルに事業を展開しているため、世界各国の経済減速や地政学的な緊張の高まりが事業に直接的な影響を与える可能性があります。また、為替相場の変動により、現地通貨建ての売上の目減りやコストの上昇を招き、価格競争力や収益性が低下するリスクがあります。

(2) サプライチェーンに係るリスク

原材料や部品の調達において、需要過剰による供給不足や急激な価格高騰が発生する可能性があります。自然災害による調達パートナーの操業停止や、人権・労働環境に関する法令違反が生じた場合、生産活動の遅延や企業の評判低下につながるリスクが存在します。

(3) 海外事業における地政学等のリスク

事業戦略の一環として海外市場での拡大を図っていますが、各国の投資・輸出規制、税制、外交政策の変化や経済安全保障政策の強化などにより、事業の制約やコスト増が発生する可能性があります。政治・社会的混乱が成長見通しに悪影響を及ぼすリスクがあります。

(4) 人的資本に係るリスク

グローバルな競争力維持のためには優秀な人財の確保が不可欠ですが、AIプロフェッショナル人財などの獲得競争は激化しています。必要な人財を適切に確保・定着させることができない場合、事業戦略の遂行や次世代技術の開発に遅れが生じるリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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