産業用機械メーカー大手のファナックが、2018年2月9日に協働ロボット「CORO(コロ)」を手掛けるライフロボティクス(東京都江東区)を買収したと発表しました。ファナックの主力商品は産業用ロボットで、2018年の年明けから半導体製造装置やスマホなどの電子機器関連向けの受注が拡大しており、好調に推移しています。
ファナックは1972年に富士通株式会社のNC(数値制御装置)部門が独立してできた会社で、創業わずか4年で上場しています。現在では世界45ヵ国・261拠点でサービスを展開しており、海外売上高比率が約8割にのぼるグローバル企業に成長しました。今や世界4大産業用ロボットメーカーのひとつとなり、シェア率は1位の安川電機、2位のスイスABBに次ぐ、世界第3位に位置づけています。
またファナックは製造業界の中では珍しく、平均年収が大台を超え、とびきり高いことで有名です。
一見ファナックを取り巻く環境には好材料しかないように思えますが、米国政府が通商法301条にもとづく対中制裁を正式に発表したことを受け、中国も米国に対して追加課税を表明するなどの応酬が続いています。
この新たな米中貿易摩擦によって景気が減速し、世界レベルで設備投資が縮小されるのではないかといった懸念が業界全体に広がっており、ファナックもこの影響を受けないか心配です。
それでは、ファナックの年収はいったいどれくらい高いのか、またなぜそんなに高いのか、そして就職・転職先として適しているのかを探っていきましょう。
ファナックの平均年収は1248.8万円
ファナックの平均年収は1248.8万円です(ファナック有価証券報告書)。キャリコネに投稿された給与明細を参考にファナックの年代別年収レンジを算出したところ、20歳代で750〜800万円、30歳代で1040〜1090万円、40歳代で1300〜1350万円という結果になりました。正規雇用者の平均年収は495.7万円(国税庁・令和2年分民間給与実態統計調査結果)で、比較して約2.52倍の額です。
■ファナックの平均年収推移
決算月 | 平均年収 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 従業員数 |
---|---|---|---|---|
2022年3月期 | 1248.8万円 | 40.3歳 | 14.4年 | 4257人 |
2021年3月期 | 1098.2万円 | 40.2歳 | 14.2年 | 4105人 |
2020年3月期 | 1216.4万円 | 40.3歳 | 14年 | 4018人 |
2019年3月期 | 1364.4万円 | 40.8歳 | 14.2年 | 3802人 |
2018年3月期 | 1347.4万円 | 41.5歳 | 15.1年 | 3495人 |
出典:ファナック・有価証券報告書
過去5年間の平均年収の推移をグラフと表組みで示しています。
ファナックの平均年収は前年を上回り1248.8万円でした。
過去5年間では3番目の額になりました。
ファナックの年代別平均年収と中央値
■ファナックの年収中央値は30代で1058.3万円
続いて年収実態により近い年収中央値を見てみます。20代から50代までの平均年収・平均月収・平均ボーナス・年収中央値を表にまとめました。
年代 | 平均年収 | 平均月収 | 平均ボーナス | 年収中央値 |
---|---|---|---|---|
20代 | 765.6万円 | 47.4万円 | 152.4万円 | 689.04万円 |
30代 | 1058.3万円 | 65万円 | 210.8万円 | 952.47万円 |
40代 | 1315.3万円 | 80.5万円 | 262.1万円 | 1183.77万円 |
50代 | 1555.3万円 | 95万円 | 310万円 | 1399.77万円 |
※キャリコネの口コミ、有価証券報告書、厚労省・経産省・国税庁発表の調査資料を元に、編集部で独自に算出
ファナックと競合他社の平均年収を比較
ファナックの競合や同業界である安川電機、三菱電機、川崎重工業の4社で平均年収を比較します。
各社の最新有価証券報告書に記載されている額は、ファナックが1248.8万円、安川電機が787.7万円、三菱電機が806.7万円、川崎重工業が683.8万円です。
この4社の中で最高額はファナックの1248.8万円で、最低額が川崎重工業の683.8万円。その差はおよそ565万円で、かなりの差があります。
この比較企業の中ではファナックは1番目に位置します。
社名 | 平均年収 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 従業員数(単体) | 売上高 |
---|---|---|---|---|---|
ファナック | 1248.8万円 | 40.3歳 | 14.4年 | 4257人 | 5782.6億円 |
三菱電機 | 806.7万円 | 41.1歳 | 16.9年 | 36700人 | 25574.36億円 |
安川電機 | 787.7万円 | 42.2歳 | 18.8年 | 3313人 | 2098.6億円 |
川崎重工業 | 683.8万円 | 40.5歳 | 14.9年 | 13381人 | 8922.03億円 |
ファナックの競合企業の年収についてはこちらの記事をご覧ください
FA化の流れが止まった2020年
2020年度は連結の売上高、純利益ともに減収減益となっています。
コロナ禍の影響で企業の設備投資が止まり、その煽りを受けてしまったかっこうです。2021年度も厳しい業績が予想されています。
近年は工場のFA化(工場における生産の自動化)を進める企業が多く、産業用ロボットは世界的な高需要を受けて、ファナック製品の受注が拡大し続けていました。
ファナック自身が自社製品でFA化し、人件費を抑制していることもあって、コロナ前には営業利益率は約30%で正社員1人当たりの経常利益はおおよそ5000万円と、メーカーにしては収益力が高水準でした。
今後、需要回復がいつになるか不透明なこともあり、業績回復も予想が難しい状況です。ニューノーマル時代においてFA化はマッチしているのですが、世界中の製造業の不振がFA化を遅らせることになり、なんともしがたい状況です。
ファナックの給与内訳
ファナックは社内のFA化進めたもの、残業の平均が月間50~60時間と比較的多く発生しています。ファナックでは、働いた分の残業代はきちんと支払われるため、サービス残業はほとんどありません。他社と比べて基本給が高くないことから、残業代が平均年収を押し上げていることがわかります。
またファナックのボーナスは業績に連動しますが、高いときには12ヵ月分が支給されるほど手厚く、収益が給与にしっかりと反映されることも、年収が高い理由です。
ファナックで働く上での課題・懸念点
■郊外立地と学閥
ファナックの本社工場は、山梨県南都留郡の忍野村(おしのむら)というところにあります。富士山麓にある村で自然豊かな美しい地域ですが、飲食店や娯楽施設は限られ、アフターファイブを楽しみたいという人には少し刺激が足りないかもしれません。
また栃木県や茨城県、鹿児島県にある製造工場も郊外にあるので、同じような環境であると言えます。
ファナックではやや封建的な社内ルールが厳格に運用されていることや、昇進基準が不透明であったり、東大・東工大卒といった学閥があるため、高待遇であっても息苦しさを感じる要素があるとも聞きます。
そのような環境下で、容赦なく押し寄せる他国の驚異とも戦わなければなりません。
製造大国である中国の台頭で、うかうかしていると追い抜かれてしまう可能性がありますし、スマホ特需に翻弄されるなど市場の状況によっては一進一退です。
安泰といわれるファナックですが、景気の影響を受けやすいといった点では注意が必要です。
結局ファナックは就職・転職先として選んでもいいのか
ここまでファナックを見てきました。結局「就職・転職先として選んでもいいのか」なんですが、
結論から言うと「選ぶべき」です。
ファナックはグローバル化をいち早く成し遂げてシェアを獲得しており、先行者優位な立場で世界でも存在感を示しています。
高需要が続くロボット産業においては世界シェアが大きく、事業をさらに拡大する動きもあり、ますます進むFA化で好調が持続することが予想できます。
またファナックは黒字・無借金の堅実経営で、年功序列・終身の安定雇用なので就職先としては安心です。
2017年11月には、100人にも上るソフトウエア技術者を一括中途採用するなど、積極的に人材を確保している面も見られ、勝ち続けるために独立独歩で安定感がある企業と言えます。
出典・参考
厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」「2019年国民生活基礎調査」
経済産業省「2021年企業活動基本調査速報-2020年度実績-」
国税庁「令和2年分民間給与実態統計調査」
マイナビ「2022年版 業種別 モデル年収平均ランキング」