NTTドコモの新しいCMが、2018年9月3日に発表されました。
さまざまなキャラクターが集まる世界を舞台に、無名キャラクターを人気者にしたいという夢を追いかけるプロデューサー役として、今話題のマルチタレント星野源氏が演じています。他にも携帯電話会社のCMには、auの「三太郎」シリーズ、softbankの「白木家」シリーズなどがあり、これらもとても話題となりました。
これらすべてのCMを手掛けているのが日本最大の広告会社・電通です。広告代理店と聞くと多くの人が真っ先に思い浮かべるであろう電通は、さまざまなメディアに対応していく大手総合広告会社の1つで、1901年に「日本広告株式会社」として誕生しました。
電通は現在、145を超える国や地域で60,000人以上の社員が働いており、業界第一位の売上高を誇ります。業界トップの企業だけあり、平均年収も業界随一であることでも有名です。
「30歳で1000万超え」「ライン部長になると1500万円」なんて言葉も聞こえてきます。
それでは、電通の年収はいったいどれくらい高いのか、またなぜそんなに高いのか、そして就職・転職先として適しているのかを探っていきましょう。
電通の年収はどれくらい高いのか?
電通の平均年収は1168.8万円です(2019年12月期有価証券報告書)。
キャリコネに投稿された給与明細を参考に電通の年代別年収レンジを算出したところ、20歳代で820〜870万円、30歳代で1030〜1080万円、40歳代で1180〜1230万円という結果になりました。男女あわせた民間の正規雇用者の平均年収は503.5万円(国税庁・令和元年分民間給与実態統計調査結果)ですから、それと比較しておよそ2.33倍の額です。
■電通の平均年収の推移
続いて、過去5年間における年収の推移を見てみましょう。
下は平均年収と平均年齢の推移を表したものです。
決算月 | 平均年収 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 従業員数(単体) | 売上高(連結) | 純利益(連結) |
---|---|---|---|---|---|---|
2015年12月期 | 1228.8万円 | 39.5歳 | 13.3年 | 7261人 | 45139.6億円 | 6694.9億円 |
2016年12月期 | 1247.7万円 | 40.3歳 | 14.1年 | 6799人 | 49249.3億円 | 7890.4億円 |
2017年12月期 | 1272.5万円 | 40.1歳 | 13.6年 | 6927人 | 51873億円 | 8776.2億円 |
2018年12月期 | 1179.8万円 | 40.7歳 | 13.8年 | 6921人 | 53572.8億円 | 9326.8億円 |
2019年12月期 | 1168.8万円 | 40.9歳 | 13.8年 | 7071人 | 51468億円 | 9393.9億円 |
出典:電通・有価証券報告書
広告を出す企業の広告宣伝費は、売上高に対して一定の割合で決まると一般的に言われています。つまり、広告業界の収益は景気動向という外部環境に大きく左右されやすいと言えるでしょう。その広告業界で、電通の平均年収を同業他社と比較すると、200万円から500万円以上も高いだけでなく、2013年度から2017年度の間に120万円も増えたことが分かりました。
電通の平均年収は、2015年には1200万円台を超え、それ以降も上げ続けそうな勢いでしたが、2015年暮れに長時間労働問題が表沙汰になって以降、働き方改革が進みその分、残業代が減ったために2018年度以降は年収が下がっていると推測されます。
電通の年代別平均年収と中央値
■電通の年収中央値は30代で1026.6万円
続いて年収実態により近い年収中央値を見てみます。20代から50代までの平均年収・平均月収・平均ボーナス・年収中央値を表にまとめました。
年代 | 平均月収 | 平均ボーナス | 年収中央値 |
---|---|---|---|
20代 | 59.8万円 | 143.5万円 | 732万円 |
30代 | 83.8万円 | 201.3万円 | 1026.6万円 |
40代 | 106.3万円 | 255.2万円 | 1301.4万円 |
50代 | 122.8万円 | 294.9万円 | 1503.8万円 |
※キャリコネの口コミ、有価証券報告書、厚労省・経産省・国税庁発表の調査資料を元に、編集部で独自に算出
電通と競合他社の平均年収を比較
社名 | 平均年収 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 従業員数(単体) | 決算期 |
---|---|---|---|---|---|
電通 | 1168.8万円 | 40.9歳 | 13.8年 | 7071人 | 2019年12月期 |
博報堂DYホールディングス | 1078.8万円 | 43.6歳 | 15.6年 | 231人 | 2020年3月期 |
アサツーディ・ケイ | 756.9万円 | 42.1歳 | 13.9年 | 1871人 | 2016年3月期 |
ファンコミュニケーションズ | 506万円 | 32歳 | 4年 | 382人 | 2019年12月期 |
バリューコマース | 600万円 | 35歳 | 5.3年 | 253人 | 2019年12月期 |
サイバーエージェント | 681.7万円 | 32.6歳 | 5.4年 | 1589人 | 2019年9月期 |
電通の同業界である広告代理店の博報堂DYホールディングス、アサツーディ・ケイ、ネット広告会社のファンコミュニケーションズ、バリューコマース、サイバーエージェントの6社で平均年収を比較します。
各社の最新有価証券報告書に記載されている額は、博報堂DYホールディングスが1078.8万円、アサツーディ・ケイが756.9万円、ファンコミュニケーションズが506万円、バリューコマースが600万円、サイバーエージェントが681.7万円です。(博報堂DYホールディングスは持株会社、アサツーディ・ケイは2018年に上場廃止しているため2016年のデータ)
この6社の中で最高額は電通の1168.8万円で、最低額がファンコミュニケーションズの506万円。その差はおよそ663万円で、かなりの差があります。
広告業界の給与明細(キャリコネ)
日本の平均年収を大きく上回る収入が
電通20代・マーケティング・企画(非管理職)の 給与明細
博報堂DYホールディングス20代・マーケティング・企画(非管理職)の 給与明細
サイバーエージェント20代・マーケティング・企画(非管理職)の 給与明細
アサツーディ・ケイ20代・マーケティング・企画(非管理職)の 給与明細
電通の年収が高い理由
■利益の海外比率が高め
広告業界は、顧客企業の広告宣伝費の大きさにより収益が左右されると先に述べました。電通が2018年2月に発表したニュースリリース「2017年 日本の広告費」によると、媒体費と製作費をあわせたインターネット広告費は1兆5094億円で、前年度の115.2%と4年連続で二桁成長となったとあります。この成長が年収の増加につながっていると言えそうです。
そして、広告費の増加により増える業務をこなすための人材が必要です。追加の人材が確保できないと、在籍している社員で仕事を回すために残業が増え、休日出勤も避けられません。業界の特性として、営業と企画職ともに仕事量が増えると言えます。この残業時間や休日出勤に対して残業代や休日出勤手当てが支払われているため、結果として年収が高くなる仕組みです。
ここまでの理由は、電通だけでなく業界全体にも当てはまることです。次は、電通固有の理由を見てみましょう。
2017年度の有価証券報告書によると、電通はグローバル市場での更なる成長のため、2013年3月に英国の大手広告会社を買収し、電通イージス・ネットワーク社を立ち上げました。グループ全体の売上総利益に占める海外比率は、58.8%と非常に大きな割合を占めています。
また、2018年の賞与支給月数の平均は2.45か月と報告があり、高い賞与も結果として年収の増加につながっているのです。
電通で年収が高いのはどんな人か
■年功序列の賃金体系 正社員と契約社員の差が大きく
職種や役職ごとの年収や違いについて、電通から正式に公開された情報はありませんが、20代や30代であっても努力によっては1000万円の大台に近づける環境です。年功序列の要素はありますが、大きく出世をしなくても、与えられたミッションをこなしていけば年収を上げていくことは大いに可能と言えます。近年の賞与額は最盛時期に比べると落ち込んではいるものの、同業種や同業他社に比べると給与水準は高く、高給であることは間違いありません。
また職種による差は同業他社と比較して大きくはありません。ただし正社員と契約社員の雇用形態で比較すると、同じ職種であっても残業時間や昇給ペースが異なることから、差が開くようです。契約社員として働く場合は、正社員との昇給幅が異なる点を理解しておく必要があります。
実際の給与明細を見比べると、目安では見えてこなかった驚きの現実が!
電通社員の給与明細(キャリコネ)
20代社員の時間外手当の割合がこんなに!
企画営業・20代(非管理職)の 給与明細
企画営業・30代(非管理職)の 給与明細
正社員と契約社員の違いはどのくらいか…
企画営業・30代・正社員(非管理職)の 給与明細
企画営業・30代・契約社員(非管理職)の 給与明細
電通で働く上での懸念点・課題はなにか
■労働環境は改善されたか
留意点の一つは、労働環境が挙げられます。
2015年の当時電通の新入社員だった高橋まつりさんが過労自殺をしたニュースは、多くのメディアでいまだに取り上げられ、電通での働き方に不安や懸念を抱く人も多いのではないでしょうか。
顧客企業の広告宣伝を支援するのが電通の主な仕事です。広告業界の営業職は、常に企業と良好な関係を保ちながら潜在的ニーズを探し、そのうえで提案をして受注に繋げなければなりません。
業種の特性を考えず、こと労働環境ばかりを通り一遍に判断して批判してしまっては、業界の衰退を招きかねません。パラダイムシフトの必要性がありますが、一朝一夕にはいかないでしょう。
労働環境は徐々に改善されてきたとも耳にしますが、マスメディアによるCMから憧れた気持ちで働くのではなく、広告作りに必要な仕事内容をきちんと理解したうえで、新卒・中途採用への就職・転職活動を始める必要がありそうです。
電通(dentsu)には年収以外にメリットはある?
ここまで電通の年収面を見てきました。ただ就職先、転職先として年収の高さだけで決めることはできません。その他にメリットは無いのでしょうか?
労働環境に不安は残りますが、これから就職・転職する人は、改善された労働環境で働ける可能性が高いです。
2016年度の社員一人当たりの総労働時間は2166時間でしたが、業務改革を行い、1年後の2017年度には2031時間まで削減しました。また社員一人当たりの有給休暇取得率も、56.0%から64.0%へ上昇し、政府の目標である70%に向けて引き続き取り組みが進められています。
揺るぎない業界第一位としてのブランド力、またリーディングカンパニーの一員として新しいことに挑戦し、携われることは大きなメリットです。クリエイターのアイディア力を活用した知的財産ビジネスにもいち早く参入しています。新時代の先端にいたい人にとっては、おすすめできる企業と言えます。
出典・参考
厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査」「2019年国民生活基礎調査」
経済産業省「2019年企業活動基本調査速報-2018年度実績-」
国税庁「平成30年分民間給与実態統計調査」
マイナビ「2020年版 業種別 モデル年収平均ランキング」