「ボクらはクロコ」のCMでおなじみの日本ガイシですが、この「ガイシ」とは、何なのかご存知でしょうか。ガイシは「碍子」と書き、送電線と鉄塔をつなぐセラミック製の絶縁体のことを指します。そして日本ガイシの製品は表面に出てこないものがほとんどであり、縁の下の力持ちとして陰で活躍する「黒子(クロコ)」のような存在であることからクロコと読んでいるようです。
同社の製造の根幹となる無機材料セラミックは、熱に強く摩耗が少ないなど金属材料や有機材料にはない優れた特性がたくさんあります。この特性を活かして半導体製造工程でシリコンウエハーを固定する支持台として応用され、高温のガスやプラズマにさらされても安定性能を発揮することで半導体の生産性を高めることに貢献しています。
また日本ガイシは、世界シェアNo.1とオンリー1の製品をもつ企業です。車の排気ガスに含まれる有害成分を浄化するハニセラムは世界の自動車メーカーに採用されているほか、窒素酸化物の濃度をリアルタイムに測定できる車載用センサーは世界シェアNo.1を誇っているのです。さらには、世界で初めて実用化した電力貯蔵システムのNAS電池も多くの実績があります。
日本ガイシは2019年5月で創立100周年を迎えましたが、今もなお、独自のセラミック技術で新しいものづくりに挑戦し続けています。
また日本ガイシは年収が高いことでも有名で、3000社を超える上場企業の中でも常に上位に位置しています。
では一体どれくらい高いのか、高い理由はなにか、年収の高さ以外のメリットやデメリットはあるのかなどに迫っていきましょう。
日本ガイシの平均年収は769.6万円
日本ガイシの有価証券報告書によると、平均年収は769.6万円と記載されています。キャリコネに投稿された給与明細を参考に日本碍子の年代別年収レンジを算出したところ、20歳代で500〜550万円、30歳代で700〜750万円、40歳代で870〜920万円となりました。男女あわせた民間の正規雇用者の平均年収は495.7万円(国税庁・令和2年分民間給与実態統計調査結果)ですから、それと比較しておよそ1.56倍の額です。
■日本ガイシの平均年収推移
決算月 | 平均年収 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 従業員数 |
---|---|---|---|---|
2022年3月期 | 769.6万円 | 39.6歳 | 14.7年 | 4382人 |
2021年3月期 | 763.5万円 | 39.2歳 | 14.3年 | 4316人 |
2020年3月期 | 777万円 | 38.8歳 | 13.7年 | 4224人 |
2019年3月期 | 788.9万円 | 38.7歳 | 13.5年 | 4119人 |
2018年3月期 | 785.2万円 | 38.7歳 | 13.7年 | 4142人 |
出典:日本ガイシ・有価証券報告書
過去5年間の平均年収の推移をグラフと表組みで示しています。
日本ガイシの平均年収は前年を上回り769.6万円でした。
過去5年間では2番めに低い額になりました。
日本ガイシの年代別平均年収と中央値
■日本ガイシの年収中央値は30代で718.6万円
続いて年収実態により近い年収中央値を見てみます。20代から50代までの平均年収・平均月収・平均ボーナス・年収中央値を表にまとめました。
年代 | 平均年収 | 平均月収 | 平均ボーナス | 年収中央値 |
---|---|---|---|---|
20代 | 520万円 | 33.6万円 | 95万円 | 468万円 |
30代 | 718.6万円 | 45.9万円 | 131.5万円 | 646.74万円 |
40代 | 893.1万円 | 56.7万円 | 163.4万円 | 803.79万円 |
50代 | 1055.9万円 | 66.8万円 | 193.3万円 | 950.31万円 |
※キャリコネの口コミ、有価証券報告書、厚労省・経産省・国税庁発表の調査資料を元に、編集部で独自に算出
日本ガイシと競合他社の平均年収を比較
日本ガイシの競合や同業界である日本電気硝子、京セラ、日本特殊陶業、イビデンの5社で平均年収を比較します。
各社の最新有価証券報告書に記載されている額は、日本碍子が769.6万円、日本電気硝子が748.4万円、京セラが725.2万円、日本特殊陶業が672.6万円、イビデンが739.1万円です。
この5社の中で最高額は日本ガイシの769.6万円で、最低額が日本特殊陶業の672.6万円。その差はおよそ97万円で、そこそこの差があります。
この比較企業の中では日本ガイシは1番目に位置します。
社名 | 平均年収 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 従業員数(単体) | 売上高 |
---|---|---|---|---|---|
日本ガイシ | 769.6万円 | 39.6歳 | 14.7年 | 4382人 | 3016.15億円 |
日本電気硝子 | 748.4万円 | 45.5歳 | 23.8年 | 1682人 | 1541.44億円 |
イビデン | 739.1万円 | 40.9歳 | 18.2年 | 3549人 | 2429.67億円 |
京セラ | 725.2万円 | 40.5歳 | 16.4年 | 20560人 | 8482.53億円 |
日本特殊陶業 | 672.6万円 | 41.4歳 | 16.9年 | 3668人 | 3169.28億円 |
日本ガイシの競合企業の年収についてはこちらの記事をご覧ください
日本ガイシの年収が高い理由
■IoTの潮流で半導体製造装置が好調
日本ガイシの2017年度営業利益率は15.5%で、製造業の平均4.2%の3倍以上もの高さであることが、平均年収を押し上げている要因といえるでしょう。
この高い営業利益率の背景には、好調な自動車関連製品があります。中国市場のトラック販売が増加したことや欧州での排ガス規制強化にともなって、NOxセンサーをはじめとする自動車関連製品が好調で売上高を伸ばしています。セラミック事業の売上高においては228億円増収し、営業利益率は23.6%と驚きの高さです。これに加えて、半導体製造装置製品の売上までも好調となっているのです。
さまざまなIoT(モノのインターネット化)を追い風に半導体製造装置部品の伸びが続き、2018年度の営業利益率は事業ベースで17.3%の予想となっています。今後も高い営業利益率が期待でき、日本ガイシの年収は今後も高い水準を推移するといえるでしょう。
日本ガイシの給与制度
■ボーナスは6.5ヶ月以上
日本ガイシの年収は、企業全体の業績によって変動すると考えておく必要がありそうです。先述のとおり、近年は自動車部品に対する需要の高まりを背景として業績が好調で、業績の良さにともなって1年で支払われるボーナス額は月給の6.5か月以上出ています。このボーナスの高さが年収を押し上げているといってよいですが、反対に業績が悪いときは30万~40万円ほど減少する可能性もあることを事前に理解しておきましょう。
また、残業時間に対して支払われる残業代も年収額を左右する大きな要因です。自動車業界の景気が良好である現在は、仕事量が増えることで残業時間も増加する傾向が高く、増える残業時間に対する残業代のアップが結果として年収をさらに高めていると考えられます。
日本ガイシ社員の給与明細(キャリコネ)
20代と30代の同職種で年収に違いはあるか?
20代・機械設計(非管理職)の 給与明細
30代・機械設計(非管理職)の 給与明細
賞与のありなしで年収に違いが?
20代・研究開発・賞与なし(非管理職)の 給与明細
20代・研究開発・賞与あり(非管理職)の 給与明細
日本ガイシの見落としがちな留意点、課題は?
世界の自動車業界において、EV(電気自動車)へシフトする傾向が高まっていることを留意しておく必要があります。このEVシフトへ大きくハンドルをきったのはアメリカとフランスであり、2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止とする方針を打ち出しました。さらに、この方針に対して中国などの新興国も同意し、ガソリン車などの販売や製造を2040年までに禁止することを検討し始めています。またインドも同様に賛同しており、2030年までにEV車に限定して新車販売することを目標に掲げています。
すでに見ているとおり、排ガス機能の製品で業績を伸ばしてきた日本ガイシとしては、自動車業界におけるこの変化は大きな痛手といえるでしょう。
日本ガイシには年収以外にメリットはある?
ここまで日本ガイシの年収面を見てきました。ただ就職先、転職先として年収の高さだけで決めることはできません。その他にメリットは無いのでしょうか?
各国が相次いでEV普及へと動き出していることに対して、日本ガイシ社長の大島卓氏は、ガソリン車やディーゼル車の需要は2020年代半ばまでは増加し続けるものと見ており、今後もそれらに向けた供給力は確保せねばならないと考えているようです。またEVの本格普及には安全性や性能が優れた全固体電池の開発と実用化が必要であり、実用化は2020年代半ばになると予想しています。それまではガソリン車などの需要は増え続けると見込んでいます。
また同社が成長してきた根源である、セラミックを応用した新製品の開発にも余念がありません。現在開発を進めているチップ型セラミックス二次電池は、切手の大きさほどの0.4ミリと超薄型ながら高エネルギー密度を実現し、IoTモジュールや指紋認証付き次世代クレジットカードなどへの活用が期待されています。
100周年を迎える年の一文字として大島氏が選んだ「遂」の精神で、やるべきことを確実に実行し市場の要求に応える姿勢により、今後も日本ガイシは成長を遂げることでしょう。
出典・参考
厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」「2019年国民生活基礎調査」
経済産業省「2021年企業活動基本調査速報-2020年度実績-」
国税庁「令和2年分民間給与実態統計調査」
マイナビ「2022年版 業種別 モデル年収平均ランキング」