三井不動産株式会社(以下「三井不動産」)は総合デベロッパーとして売上首位で、言わずと知れた大企業です。
2019年5月には、「東京ミッドタウン日比谷」が日本不動産学会国土交通大臣賞(2018年度)を受賞したことでも話題になりました。採算性を優先させた単純な建て替えではなく、安全性などに考慮しつつも周囲と一体化したデザインで、新たな東京の核となる空間を創出。十数年に渡るエリアマネジメント、大規模災害時の帰宅困難者の受け入れ準備なども功績として認められました。こうした巧みな「街づくり」には定評があります。
また、東洋経済の「年間離職者が少ない大企業」(2017年度のデータ)で4位に入るなど、働きやすい企業としても知られています。そんな三井不動産について、業績や年収、面接対策に至るまで、さまざまな観点から探ってみましょう。
三井不動産の事業概要~どんな事業をしているのか
■「ミッドタウン」などの賃貸事業が主力
三井不動産の事業は、「賃貸」「分譲」「マネジメント」「三井ホーム」「その他」に大別されます。
賃貸・分譲がそれぞれ約3割の売上を占める
まず、売上の約32%(2019年3月期)を占める主力は賃貸事業です。「三井タワー」「ミッドタウン」などのオフィスビルや、「ららぽーと」「三井アウトレットパーク」といった商業施設を展開しています。
次いで、売上の約29%を占めるのが、国内住宅分譲と投資家向け・海外住宅分譲で構成される分譲事業です。国内分譲マンションの代表ブランドであるパークシリーズは、価格や規模、用途によって名称が異なります。高額物件の「パークマンション」、大規模物件の「パークシティ」、都市型マンションの「パークホームズ」などがあり、物件所在地の大部分は首都圏です。
三井不動産の業績・財務状況~業績はどうか
■全体の業績と財務状況
大手不動産会社は全体的に好調ですが、三井不動産の業績はどうなのでしょうか。まずは三井不動産の連結の業績をみていきましょう。
2019年3月期は、売上高が1兆8611億円、営業利益は2621億円。経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益も含めて、全て過去最高を更新しました。
前年度と比較しての増加率は、売上高が+6.3%、営業利益が+6.6%、経常利益が+5.7%、親会社株主に帰属する当期純利益が+8.2%です。
総合的に好調でしたが、特に主力の賃貸事業は外部状況の後押しもあって業績を伸ばしています。なお、すでに2020年3月期の見通しも発表しており、売上高は8期連続、純利益は6期連続で過去最高になる見込みです。
■セグメント別の業績と現在の取り組み
では、2019年3月期のセグメント別の業績も詳しくみていきましょう。
空室率の低下でオフィスビルが好調
賃貸事業は、首都圏オフィスの空室率が想定以上に低下したことや、既存オフィスの賃料が上がったことなどにより、営業収益が6032億円、営業利益は1419億円で着地。予想を20億円ほど上回る増益となりました。2018年2月に竣工した「東京ミッドタウン日比谷」の通期稼働なども寄与しています。
分譲事業では投資家向け&海外からの営業利益が約7割
分譲事業では、国内住宅分譲で高額物件の引き渡しがあった関係で増収となる一方、2018年3月期に高利益物件があった反動で利益は減少。しかし、本業の業績の良し悪しをあらわす営業利益率は9.3%と高水準です。また、投資家向けや海外での住宅分譲が好調で、事業全体としては増収増益になっています。実は、分譲事業の営業利益の約7割は投資家向け・海外住宅分譲から発生しています。
新築マンション高騰で海外にシフト
不動産経済研究所によると、首都圏新築マンションの2018年の平均価格は5871万円です。かつて、住宅購入価格の目安は「税込年収の5倍まで」と言われていたこともありましたが、年収相場を考えても、すでに現実的ではなくなっています。
こうした外部状況を鑑みて、三井不動産は投資家向け物件や、海外での住宅分譲にも力を入れてきました。こうした戦略が功を奏したといえるでしょう。
三井不動産の事業戦略~今後の展開は
■全体の事業戦略と事業計画
つづいて、今後の戦略についてみていきましょう。不動産業界は、人口減少、少子高齢化社会、テクノロジーの進化、価値観の多様化といった急速な変化への対応を迫られています。
そんななか、三井不動産は10カ年の長期経営方針「VISION2025」を定め、「テクノロジーと不動産をかけ合わせたビジネス」「海外事業の拡大」などの戦略を打ち立てています。
テクノロジーに関しては、例えばセンスウェイ社と事業提携契約をし、IoT(モノのインターネット)環境の構築を進めています。三井不動産が管理する高層ビルやホテルなどにアンテナを設置することで、長距離・低消費電力のデータ通信の実現に向けて動く、といった取り組みも。
海外事業に関しては、2019年を含む7年の投資額3兆円のうち、半分の1兆5000億円を海外に充てる計画です。代表的なものは、米国でも最大規模の再開発事業「ハドソンヤードプロジェクト」(マンハッタン)への参画でしょう。2018年に51階建ての「55ハドソンヤード」を竣工しており、2022年には「(仮称)50ハドソンヤード」を竣工予定です。
2025年度頃には、連結営業利益のうちの約3割を海外事業から得ることを目標にしており、総合デベロッパーのなかでもいち早く海外展開を進めています。
■セグメント別の事業戦略
今後の賃貸事業に目を向けてみると、「日本橋髙島屋三井ビルディング」「msb Tamachi 田町ステーションタワーS」などが2020年3月期に通期稼働するほか、2022年以降には八重洲二丁目や日本橋一丁目などのプロジェクトも竣工予定です。2025年前後には同社のオフィス床面積が2018年3月期と比較して約1.5倍になります。ショッピングセンターも同様に床面積の1.5倍拡大を目指しています。
ハードからソフトへと軸足を移した、分譲事業の成長戦略の変化からも目が離せません。「ハード」は住宅そのものを指し、「ソフト」は住民やその生活にあたります。例えば、勝どきでは野菜販売店やキッチンカーが集まる「太陽のマルシェ」を月に1回定期開催。日本最大級の都市型マルシェとして注目を浴びており、新しい可能性を探っています。
また、2019年7月より開始した、住宅設備機器の修理費用を月額1300円で保証する居住者向け定額型サービス「LOOP Prime」も、注目したいところです。
三井不動産の年収~報酬はどれぐらいか
■平均年収1200万円超え
まず三井不動産の平均年収ですが、2019年3月期の有価証券報告書には、平均年間給与額は、1263.4万円と記載されています。キャリコネに寄せられた給与明細から算出した年代別年収レンジは、20歳代で770〜870万円、30歳代で1050〜1150万円、40歳代で1290〜1390万円となっています。
マイナビの「2019年版 業種別 モデル年収平均ランキング」によると、不動産業界のモデル年収(平均)は751万円。三井不動産の年収目安は20代ですでにこれを上回っており、高収入が見込めることがわかります。また、プレジデントオンラインの不動産業界(上場企業)の年収ランキング(2018年版)では5位に入っています。
求人サイトの募集要項を確認してみると、中途採用の総合職の給与は
月給25万5000円以上
デジタルエンジニアの給与は、
月給29万円以上
とのこと。
いずれも昇給は年1回、賞与は年1回です。住宅融資制度やカフェテリアプランの宿泊補助・ベビーシッター費補助など、社員の経済的負担を軽減する制度が多く用意されています。
出世に関しての口コミをチェックしてみると、「向上心があればチャンスをもらえる」、「頭がよく、謙虚な人が出世していく」という声がある一方で、「成績による差は少ない」、「定期的に昇給していく」といった声もありました。
■経営企画の年収実態(30代/男性/経営企画)
年収口コミ
不動産業界における年収順位は118社中4位で業界内年収は平均より …(続きを見る)
具体的な年収額をお知りになりたい場合は、キャリコネの給与明細投稿をご覧ください。
三井不動産社員の給与明細(キャリコネ)
同じ営業でも年代で1000万円以上の差?
20代営業職(非管理職)の 給与明細
40代営業職(管理職)の 給与明細
同じ30代でも職種によって差が開く
30代コンサルタント(非管理職)の 給与明細
30代営業職(非管理職)の 給与明細
■営業職の出世の実態(30代/男性/法人営業)
出世口コミ
向上心を持ち続けている人にはチャンスを与えてくれる会社である。自分自身の知識が増えれば…(続きを見る)
三井不動産の年収について詳しく解説した記事も合わせてお読みください
三井不動産の働く環境~働きやすさはどうか
三井不動産で働いていく上で大切なことのひとつに「働く環境はどうなのか」があります。キャリコネに寄せられた口コミを元に、制度や環境の中から特徴的なものを3つ紹介します。
社員の健康管理に注力 「ホワイト500」も連続認定
三井不動産は健康経営に積極的に取り組んでおり、「健康経営優良法人2019」大規模法人部門(ホワイト500)の認定も受けています。同認定制度が2017年にスタートして以来、3年連続での認定です。
そして、社員の健康のために、
毎年の健康診断実施に加え、35歳以上の全社員とその配偶者の人間ドック受診、女性社員や社員の配偶者の婦人科検診も毎年行い、あわせて人間ドック休暇も付与
といった手厚い施策を講じており、人間ドック受診率は99%を超えています(2017年度)。
また、仮眠ができて専門マッサージ師もいるというリフレッシュルームがあり、疲労回復に役立っています。口コミでも、充実した設備・制度に満足する声が多くみられました。
人事部が全社員と面談して細やかにフォロー
三井不動産は、大企業ながら社員一人ひとりの声を大事にしており、面談制度を数多く設けています。所属部署の上長だけではなく、人事部も非正規雇用の社員を含めて毎年全員と個別の面談を実施。状況の把握に努めています。
口コミをみても、面談制度は社員の考えを伝えられる場として好感触なようです。こうした体制があることで、本人の希望にあったキャリアづくりをしやすくなるほか、直属の上司にはいいづらい悩みを相談できることもあるはず。制度の利用漏れなども防げ、離職率の低さにつながっているのではないでしょうか。
「育パパトレーニング休暇」などのユニークな制度も
三井不動産は、実に20年以上も育児休業からの復帰率を100%のままキープしています。
その背景には、
・法定以上の育児休業期間(最長3年)
・ベビーシッター・学童保育費用補助制度などの経済支援
・延長保育・スポット利用も対応している事業所内保育所
といった非常に充実した両立支援施策があります。
また、国内では男性に向けた育児支援がなかなか進まない現状があるなかで、「配偶者出産休暇」や「育パパトレーニング休暇制度」も用意しています。
育パパトレーニング休暇というのは、
配偶者が出産した男性従業者を対象とした5日間連続の有給休暇制度。子どもが2歳に達する年度末を越えて初めて到来する4月末日まで、子ども一人につき1回取得することができます。
という制度です。
在宅勤務制度を利用して自宅やシェアオフィスで働く日・時間をつくることも可能で、口コミでも「自分で働き方を調整できる」という声がみられました。
■営業職の残業時間の実態(20代/男性/代理店営業)
残業時間口コミ
残業は上司、部署によって付けやすさが違う。50時間までは平均してつけられるが、決算期や…(続きを見る)
三井不動産の職種~どんな職種があるのか
■街づくりとITの融合 デジタルエンジニアを採用強化中
では、三井不動産がキャリア採用で募集している職種についてもみていきましょう。
前述のとおり、同社はテクノロジーを活用した不動産ビジネスの変革に取り組んでいるため、デジタルエンジニアの採用に注力しています。ITアーキテクト・PM・データ分析業務などを担う人材を求めています。デジタル領域の業務経験のある人や、SIer・ITコンサルなどでエンジニアとして働いていた経験がある人などが対象です。
また、公式のキャリア採用サイトから応募できるのは、「総合職」です。職種は限定されていません。募集要項では、職務内容について
オフィスビル、商業施設、住宅、ホテル、リゾート、不動産ソリューションサービス、海外事業、物流施設などの企画・開発・営業・運営ならびにコーポレート(総務・経理・広報・人事・ITほか)などの業務に従事
と書かれています。採用人数は決まっていませんが、2017年は10名、2018年は17名採用しています。
目安として大学・大学院卒業後に満4年以上の就業経験がある人が対象となっており、不動産業界の経験・知識は問われません。幅広い業界から中途採用を行っています。
なお、三井不動産には数多くのグループ会社があります。例えば、新築マンションや戸建ての開発・販売などを行いたい場合は「三井不動産レジデンシャル」、ツーバイフォー(2×4)住宅に携わりたい場合は「三井ホーム」といった具合に、興味のある領域に応じてグループ会社の採用ページをチェックする必要があります。
三井不動産の採用試験~面接に合格する方法は
■同社の施設・物件に訪問することも重要
では、選考プロセスについてもみていきましょう。総合職に関しては、書類選考の後に適性試験を受け、面接を複数回。デジタルエンジニアの場合は、書類選考の後に面接を3回程度行うという流れになっています。適性試験などで不動産業界の知識を問われることはありません。
なお口コミをみると、面接での質問は志望動機や自己PR、経歴、退職理由など、一般的な内容が多いようです。
ただし、事前の準備が回答の質を左右するような質問をされたケースも。例えば、
「行ったことがある三井不動産のどの建物が好きか3つ理由も付けて答えて」
など、三井不動産が開発した物件に関する質問をされたという口コミも複数みられました。面接前には同社の施設・物件を実際に見ておいたほうがいいでしょう。
■25歳女性/カウンターセールス【結果:2次面接を辞退】
三井不動産の面接時の雰囲気や質問内容をまとめた記事もお読みください。
最後に~三井不動産を転職先としておすすめする理由
ここまで三井不動産について詳しくみてきましたが、同社を転職先としておすすめする理由は、以下の3つです。
【1】安定的な経営
不動産を取り巻く環境は急速に変化し、国内市場は収縮しています。そんななか、三井不動産はいち早く海外市場で事業を拡大してリスクをカバーするなど、鮮やかな戦略で安定的な経営を継続しています。
【2】多様な育児支援
事業内保育所や育パパトレーニング休暇などがあり、ワークライフバランスを保ちやすい環境です。ライフスタイルが変化しても、安心してキャリアを継続させられるでしょう。
【3】圧倒的な離職率の低さ
長期的に1つの会社でキャリアを築くニーズが高まる昨今、働き方改革の専門部署をいち早く立ち上げるなど、三井不動産は長期就業に重きを置いています。2017年度のフルタイム従業員(正社員)の離職率は、なんと0.79%です。
業界首位の安定した業績のみならず、報酬の高さや働きやすさの面でも、非常に魅力的。転職を考える際には、ぜひ検討したい企業です。