「信用取引」とは何か?
信用取引とは、一定の保証金を担保として預けることで、証券会社から株や資金を借りて株取引ができる制度です。
保証金は、新規取引に係る約定(売買)価額の30%以上、最低30万円が必要です。
レバレッジをかければ、最大で保証金の約3.3倍の取引ができ、購入だけでなく、株を借りて売却から取引を始めることも可能になります。
日本取引所グループは、東京証券取引所、大阪取引所、東京商品取引所等を運営する取引所グループです。
なお、信用取引については、制度が複雑で取引リスクもあり、証券会社によってサービス内容が異なる場合もあります。
本稿では制度の概要を分かりやすく説明することを優先しますが、実際の取引を行う場合には必ず各証券会社のウェブサイトなどの説明を参照してください。
「信用買い」と「信用売り」
信用買いとは、信用取引で株を買うこと。信用売りとは、信用取引で株を売ることです。
特に信用売りについて、自ら保有していない株を借りて売るので「空売り」ともいいます。この手法では、現物取引では利益を得ることができない株価の下落局面でも利益を得る(または損失をカバーする)ことができます。
信用取引は最大で証拠金の3.3倍の取引ができます。少ない資金で大きな取引ができることから「レバレッジ取引」といいます。利益を大きくねらえる反面、相場の動きが予想と外れた場合には損失も大きくなるので、細心の注意が必要です。
ポイント
「株価の下落局面」でも利益を上げるとは?:
現物取引の場合、株は新規では購入しかできず、売買で利益を得るためには「安く買って高く売る」ことが必要となります。
信用取引では、証券会社から株を借りることで売却から取引を始めることができます。この場合、売買で利益を得るためには「借りた株を高く売って安く買い戻す」ことが必要となります。
「制度信用取引」と「一般信用取引」
信用取引には「制度信用取引」と「一般信用取引」があります。
■制度信用取引
制度信用取引とは、証券会社が証券金融会社から資金や株を借り入れて、投資家に貸し出すしくみです。
投資家は借り入れた資金や株式に品貸料等を上乗せし、原則として6ヶ月以内に証券会社に返済しなければなりません。
制度信用取引の場合、取引できる銘柄は取引所が制度信用銘柄に選定した銘柄のみです。上場銘柄のうち一定の基準を満たした「制度信用銘柄」(融資銘柄。買建のみ)と「貸借銘柄」(売建も可)に限られます。NISA口座では取引できません。
出典:SBI証券における制度信用取引と一般信用取引の違い
■一般信用取引
一般信用取引は、投資家と証券会社との間で完成する取引です。証券会社が保有している資金や株式の範囲で行われ、返済期限は証券会社によって異なります。
取引できる銘柄は、信用買いの場合は基本的に上場銘柄すべて、信用売りの場合は各証券会社が指定した銘柄です。制度信用取引では対象外の銘柄も取引できる場合があります。
なお、金利や貸株料は制度信用取引よりも高くなります。多少コストが増えても長期での保有を希望する場合や、新興市場銘柄の空売りをしたい場合などには、一般信用取引を選ぶことになります。
「制度信用」では取引所が制度信用銘柄に選定した銘柄について、「一般信用」では上場株式等の中から証券会社が独自に選定した銘柄について、お取引が可能です。
ソニー株による信用取引のシミュレーション
ここでソニー株を例に、具体的に信用取引のシミュレーションをしてみましょう。
信用取引で利益を得るためには、株価の上昇が見込まれるときには「信用買い」、株価の下落が見込まれるときには「信用売り(空売り)」をする必要があります。
■ソニー株を「信用買い」する場合
ソニーの株価が「8200円から9700円へ上昇する」と見込んで「ソニー株を100株購入する」ときに、「現物買い」をした場合と「レバレッジ3.3倍の信用買い」をした場合の試算は次のとおりです。
●「現物買い」の試算
ソニーの株価が8200円のときに100株を現物買い=82万円の資金が必要
ソニーの株価が9700円のときに100株を現物売り=97万円
82万円の資金で、15万円の利益
●「レバレッジ3.3倍の信用買い」の試算
自己資金25万円×3.3倍=82.5万円
ソニーの株価が8200円のときに100株を信用買い=82万円
ソニーの株価が9700円のときに100株を売却=97万円
25万円の資金で、15万円の利益(※同じ利益を3分の1以下の資金で上げられる)
■ソニー株を「信用売り」する場合
ソニーの株価が「8200円から6700円へ下落する」と見込んで「ソニー株を100株空売りする」ときに、「レバレッジ1倍の信用売り」をした場合と「レバレッジ3倍の信用売り」をした場合の試算は次の通りです。
●「レバレッジなし(1倍)の信用売り」の試算
ソニーの株価が8200円のときに100株を信用売り=82万円の資金が必要
ソニーの株価が6700円のときに100株を買い戻し=97万円
82万円の資金で、15万円の利益
●「レバレッジ3.3倍の信用売り」の試算
自己資金25万円×3.3倍=82.5万円
ソニーの株価が8200円のときに100株を信用売り=82万円
ソニーの株価が9700円のときに100株を買い戻し=97万円
25万円の資金で、15万円の利益(※同じ利益を3分の1以下の資金で上げられる)
信用取引による損失のリスク
信用取引で注意すべきなのは、現物買いの損失は購入した株価の範囲に限定される(1万円の投資がゼロになる)のに対し、空売りの損失は上限がないということです。
株価が下落することを見込んでレバレッジをかけて空売りしたのにもかかわらず、株価が上昇した場合には、急速に損失が拡大します。
短期間に株価が2倍、3倍になるケースは珍しくありませんが、レバレッジをかけていれば損失が大きくなります。「投資初心者はレバレッジをかけて空売りをすべきでない」と助言するベテラン投資家も少なくありません。
■「信用買い」の予想が外れた場合
●「レバレッジなし(1倍)の信用買い」の試算
ソニーの株価が8200円のときに100株を信用買い=自己資金82万円
ソニーの株価が6700円に下落し100株を売却=67万円
82万円の資金で、15万円の損失
●「レバレッジ3.3倍の信用買い」の試算
自己資金82万円×3.3倍=270.6万円
ソニーの株価が8200円のときに330株を信用買い=270.6万円
ソニーの株価が6700円に下落し330株を売却=221.1万円
82万円の資金で、49.5万円の利益(※同じ投資資金で損失が3.3倍に拡大)
■「信用売り」の予想が外れた場合
●「レバレッジなし(1倍)の信用売り」の試算
ソニーの株価が8200円のときに100株を信用売り=82万円の資金が必要
ソニーの株価が6700円のときに100株を買い戻し=67万円
82万円の資金で、15万円の損失
●「レバレッジ3.3倍の信用売り」の試算
自己資金82万円×3.3倍=270.6万円
ソニーの株価が8200円のときに330株を信用売り=270.6万円
ソニーの株価が9700円のときに330株を買い戻し=221.1万円
82万円の資金で、49.5万円の損失(※同じ投資資金で損失が3.3倍に拡大)
信用取引の「決済方法」
信用取引では、証券会社からお金や株式を借りて取引を行います。そのため、いずれ返済して決済する必要があります。
返済の方法には、「反対売買」によるものと「現物株」を介したものの2種類があります。
■信用買いの決済方法~「売却」と「現引き」
信用買いの決済は「売却」と「現引(げんびき)」の2種類です。
信用買いの場合、証券会社を通じて建玉の反対売買で決済すると売却になります。
また、株式を売却せずに現物株を受け取って決済することを「現引(げんびき)」といいます。買建て金額を現金で支払うことで、現物株を手元に残すことができます。この時点では現物株を売却するまで損益は確定していません。
ポイント
信用買いを売却で決済した場合、売却時に購入時よりも株価が上昇していれば利益となります。信用買いの買建て金額よりも売却金額の方が大きくなるためです。その一方で、株価が下落していれば損失となります。
現引は、信用買いをしたあとに株価が上がっていて、さらなる値上がりが期待できるために現物を保持し続けたいときに有効です。
■信用売りの決済方法~「買い戻し」と「現渡し」
信用売りの決済は「買い戻し」と「現渡(げんわたし)」の2種類です。
信用売りの場合、証券会社を通じて建玉の反対売買を行うと買い戻しになります。
現渡(げんわたし)とは、建玉と同じ銘柄の現物株を保有している場合に、現物株を差し出して決済する方法です。この方法なら市場で買い戻さなくても、売建て時の金額をそのまま受け取ることができます。
ポイント
信用売りの場合、株価が下落していれば信用買いの売建て金額よりも買い戻し金額の方が小さくなり利益となりますが、株価が上昇していれば損失となります。
現渡は、信用売りをした銘柄と同じ銘柄を現物株式で保有していて、今後も下げ止まらないと判断したときに有効です。
「追加保証金」について
空売りした株が値上がりしても、売却しなければ損失が確定しないのではないかと考える人もいるかもしれません。株価は上下しており、いちど下がっても再び上がることが少なくないからです。
しかし、株価がいったん下がりすぎてしまったら(信用買いの場合は上がりすぎてしまったら)、いちど「追加証拠金」を支払わないと、委託証拠金で強制決済されてしまいます。
証拠金による決済で不足金があった場合には、証券会社から不足分が請求され、速やかな入金が求められます。
ポイント
例えば保証金30万円で99万円の信用買い(レバレッジ3.3倍)をしたとき、買い建てた株(買建玉)が株価の下落で89万円になってしまった場合には、10万円の評価損が発生します。
これを埋めるために、保証金から10万円が引かれ20万円になります。この時点では保証金率は20万円÷89万円=22.47%で、最低維持率を上回っています。
しかし、さらに株価が下落して買建玉が86万円になってしまった場合、
保証金率は(30万円-13万円)÷86万円で19.77%となり、20%を下回ることになります。
追証が発生したときには、保証金率20%を維持するために「現金の差し入れ」を行うか、「建玉の返済」を行わなくてはいけません。追証が解消されない場合には、証券会社によって全建玉が強制的に決済されます。
追証の発生を防ぐための最も初歩的な方法は、レバレッジを抑えることでしょう。前述の「ポイント」のケースでも、レバレッジなし(1倍)であれば追証は発生しません。レバレッジをかけなくても、空売りなど信用保証のメリットを得る方法はあるので、そこから利用することをおすすめします。
信用取引とは、現金や株式、投資信託を担保として証券会社に預けることにより、その担保合計金額の約3倍の購入資金や株式を借りてお取引が可能となる株式取引です。