高齢者に「よく理解できない話法」で保険販売
かんぽ生命保険が「顧客に不利益な契約」を相次いで締結していた背景には、「営業手当」をより多く獲得したい社員による社内規定の悪用がありました。これにあわせて、規定の不備とともに「過酷な営業ノルマ」の存在も指摘されています。
具体的な不正の例には、顧客本人の支払い能力を明らかに超えた契約を結んでいたほか、新旧の保険料を「二重払い」にしたり、保険契約のない「無保険状態」をわざと作ったりするなど、かなり悪質な手口が並んでいます。
このような個人顧客を相手にした問題の多くは、実はかんぽ生命保険ではなく日本郵便、つまり郵便局で発生しています。なぜなら、全国主要都市76か所にあるかんぽ生命保険の直営店では法人営業を行っており、個人客への営業は郵便局に代理店委託しているからです。
企業口コミサイト「キャリコネ」には、かんぽ生命保険に関する不満が多く書き込まれていますが、その多くは日本郵便の社員によるもの。日本郵便勤務の30代男性は、2011年度当時の業務実態を振り返りながら、退職理由をこう明かしています。
保険の渉外営業をやっておりました。非常に離職率が高く、同期〔入社〕もほとんど退職しており、やりがいが一切なかったため。高齢者によく理解できない話法で加入させる職場である。商品内容が他社に比べて著しく悪いため、営業としては厳しい。いい人に限り辞めていくという流れです。休みだけはしっかりあった。(2015.9.10)
顧客志向意識の低い「役人文化」が蔓延
キャリコネには、かんぽ生命保険の社員による強い不満を伴う口コミは、あまり見られません。面倒な個人顧客への販売は、郵便局に押し付けているからでしょうか。
2007年の郵政民営化で株式会社となったかんぽ生命保険の職員は、さかのぼれば郵政省に入った国家公務員でした。その当時に入省した職員は現在も残っています。
法人営業担当の20代女性は、顧客志向意識の低い「役人文化」にあきれ、「公務員時代からの人がまだまだ多いので、そこの意識を変えるには10年単位で時間はかかる」としています。
マニュアルや規定がしっかりあるので、この通りにやれば何も問題がないので発想力や自分で考える力は養われないので民間から来た人はかなりのギャップを感じると思う。チャレンジすることよりもマニュアルに沿ってやることを評価する会社なので、公務員志望の方や何も考えず言われたことだけやりたい人以外にはオススメはしない。(2019.3.16)
会計職として働く20代の女性社員は、職場の雰囲気をこう説明します。
元お役所だったこともあり、決定までに多くの決裁を要するため、スピード感があり、実行力があるバイタリティが強い人は、ストレスを感じることも多いかと思う。ただし、言われたことをやる、あまり考えたくないという人には向いているかもしれない。(2017.4.6)
郵政省以来の官僚的な「縦割り」文化も健在のようで、30代の男性社員は「働く担当者たちの閉塞感は凄まじく、かなりの不満がたまっている」と漏らします。
無理難題を押し付ける割に、ライン管理職からのフォロー等はほとんどなく、振られた仕事を自分1人で完遂しなければならない。部署間、担当間、下手すれば同じライン内ですら協力する雰囲気は皆無であり、孤立した社員が数多く存在し、精神を病んでしまう社員も一定数いる。(2017.9.5)
日本郵便の「ブラック労働」との格差に愕然
一方、元公務員らしく、残業や休暇取得の管理は徹底しています。事務担当の20代女性は「サービス残業は一切なく、1分単位で申請している社員もいる」と言っています。
所属長によるが、現場は定時退社が多い。残業も、事前に所属長の許可がいる。有休は100%消化。20日の有休のほか、夏季休暇3日に冬期休暇2日と、25日休みがもらえる。小さい子供がいる社員は子供1人毎に更に5日休みが与えられ、休みが多すぎるためあまり会社にいない人もいる。(2019.4.3)
さらに水曜にはノー残業デーが設定されており、男性社員も育児休業の取得を推奨。20代男性社員は「非常にホワイトな企業」と語ります。
給料に関しては固定給が低いものの、残業代はしっかりと支給されるのでサービス残業といったものはない。男性社員による育休等の取得も勧奨している。(2017.1.12)
この取り組みは女性の働きやすさにも直結しており、子育てをする女性社員にも理解があると20代後半の女性社員は言っています。
子持ちの女性には非常に理解があり、時短勤務でも役職・管理職についている。女性管理職も多く、他の民間企業に比べると女性でも活躍できる環境だと思う。(2019.4.3)
その一方で、営業を委託されている日本郵便の社員は、かんぽ生命保険の商品について「世間のニーズに対応していない物が多い」などと酷評しています。これをあわせてみると、労働環境のホワイトさにも、どこか虚しさを感じてしまいます。