郵便局の「保険押し売り」問題 社員も自虐「罪悪感を抱かず高齢者に売れる人が向いている」

郵便局の「保険押し売り」問題 社員も自虐「罪悪感を抱かず高齢者に売れる人が向いている」

かんぽ生命保険は2019年7月、顧客に対して不利益な販売があったことを明らかにして謝罪しました。この問題は2018年4月24日放送のNHK総合「クローズアップ現代+」の「郵便局が保険を“押し売り”!? ~郵便局員たちの告白~」で、すでに大きく取り上げられていました。


ツイッターには視聴した現役局員から「ほんと現場はこのとおり」、退職者からも昔働いてたけど郵便局はパワハラ横行のクソブラック企業。 働いてる人達は感覚が麻痺してると思うなど厳しい声があがっている。

紹介された「不適正営業」の例では、70代の女性が、毎月の支払額が4万円にのぼる保険を契約させていた。支払いは90歳まで総額640万円となるが、死亡時の受け取りは不慮の事故など限られた場合を除くと500万円にしかならないという保障内容だ。

予想外の業務に「1年以内に半分ぐらい辞める」

女性が「90歳まで私払えません」と断ると、男性職員3人が女性を囲んで「息子さんのために」と繰り返し、契約者が70歳以上の場合は家族の同席が必要というルールにもかかわらず「同席拒否」と書かれた紙を渡され、その通りに書くよう強制されたという。

このような不適正営業の背景には、苛烈なノルマがあることは言うまでもない。企業口コミサイト「キャリコネ」には、2011年ころから日本郵便の現役社員・OBOGからの書き込みが急増。現在は1000件を超える口コミなどが集まっている。

郵便局勤めといえば、来訪するお客様のために郵便や貯金の事務的な手続きをするイメージがあるが、実は窓口にも重い「販売ノルマ」を課せられているようだ。カウンターセールスを担当する職員たちは実態をこう説明する。

「カウンターセールスは、郵便・貯金の事務業務ができるのは当たり前。とにかく営業、特に保険販売ができないと話にならない」(20代女性)

「あまり魅力的な商品がなくても、目標が降りてくれば必ず達成しなければならないため、自分で商品を購入したり、保険の契約を無理している話がある。貯金、保険、郵便、物販と商品は多岐にわたるのだから、もう少し地域性を考慮して、強みを生かした営業をできればいいが・・・」(30代女性)

ノルマ達成のプレッシャーがきつく、耐えられずに退職する人も少なくない。

「郵便局の窓口でしたが、数字達成をガンガン言われました。来店した人に保険を売るのはなかなか厳しい。でも基本給が低いので、保険を売ってインセンティブをたくさんもらわないと生活できない・・・」(20代女性)

「貯金商品も保険商品もグループ会社の商品なので、営業して手数料を稼ぐしかない。いつも来る年配の人に同じ毎回営業の話をしないといけません。あまりにも想像と違いすぎて、新人など1年以内に辞めていく人が半分ぐらいいます・・・」(30代男性)

退職者「罪悪感に耐えられなかった」

別の30代の男性も「近年、保険のノルマが上がってきており、精神的に持たなくなった」と退職を決めた。番組でも、前年度実績の1.5倍から2倍もの目標が設定されていることが内部文書で裏付けられている。

「(職場には)伝統的に自爆営業を推進する土壌があり、はがきなら金券ショップに持ち込めばいいとし、保険にまでそれを求めようとする。保険だけでなく、ふるさとゆうパックや年賀はがきなど魅力の薄い商品を薦めなくてはいけない罪悪感に耐えられなかった」

重いノルマはカウンターだけではない。ルートセールスで顧客を訪問する20代の男性は、自社の商品について「主観ではあるが加入いただくうえでメリットは少ない」「最近は保険料が高く基本的に損する商品」と厳しく評し、自分の仕事を自虐的に語る。

「半分ギャンブルみたいな商品なので、罪悪感を抱かずに高齢者に売る自信がある人は向いている。しかしそのような商品なのでクレームも多い。入社しようと考えている方は商品を調べ、今後ニーズがあるかをよく考えた方がよい」

番組には、ノルマが未達の職員を集め、「低実績の連中が雁首そろえやがって、お前らここに来て恥ずかしくないのか!」といった懲罰的なパワハラ指導が行われているという告発があった。コンサルティング営業の40代男性も「保険の業務上、一日に一本の契約もないと詰められる。これが何日も続くと地獄と化します」と明かす。

「パワハラ指導を避けるため、先輩社員と一緒に営業に行き、数字を分けてもらう。代償は飲み会で酒を振舞うこと。お酒が飲めないと、とにかく辛い。またみんなバイクで移動するのでバイク事故が非常に多い。入社後はバイクの練習からはじまる。それでもすぐに事故をおこして大怪我をし、辞めていく人が後をたたない」

会社はノルマを認めず「期待される目安額」

なぜここまで「保険営業」に力をいれなければならないのか。その背景には日本郵政グループ全体の業績不振がありそうだ。最終赤字に陥った2017年3月期は、グループ連結の経常収益が前期比で9310億円も減っている。

特に生命保険事業の収益は、前年比で9462億円減と大幅に落ち込んだ。同事業のセグメント利益も、4115億円から2797億円まで減少。セグメント利益全体に占める割合も、42.4%から35.0%に大きく減っている。

この目減り分を取り戻すために必要な数字を出し、それを本社が支社に割り振り、支社がブロックごとに振り分け、それが各郵便局や各社員に割り当てられているのだろう。達成見込みを立てられる合理的な理由は薄い。

番組には放送後、24時間で新たに250通の告発が寄せられているという。日本郵政の佐野公紀常務執行役員は、今回の放送中に取り上げられた現役社員からの「加重ノルマ」批判を受け、番組にこのような回答を寄せている。

「郵便局関係者からの声(編註:苛烈なノルマへの批判)は、自らの昨年度の販売実績額と自らに期待される目安額の差のことではないかと思われます。会社としては必要な収益を確保するために、各郵便局が営業目標を達成してほしいと考えており、各郵便局ではこの郵便局目標を社員皆で分担し合いながら達成を目指していくことになります」

日本郵政では「ノルマ」という言葉を使わず、あくまでも「目標」「期待される目安額」という言葉にこだわっている。しかし口コミからも分かるような運用をしている限り、それは紛れもない「必達ノルマ」として機能する。「必要な収益の確保」を最優先する限り、市場や顧客の視点との食い違いは消えない。

業績悪化の原因をさらに遡れば、日銀のマイナス金利が国債の低金利を招き、かんぽ生命の収益性を悪化させている面もあるだろう。それによって保険料の改定を余儀なくされ、顧客メリットも低下している。そのような一連の問題を現場にのみ押し付けているとすれば、社員も到底納得できないに違いない。

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