松竹 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

松竹 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム市場に上場し、映画・アニメ等の映像関連事業、歌舞伎・一般演劇の演劇事業、不動産事業を展開する総合エンタテインメント企業です。直近の決算では、不動産事業が安定収益を維持したものの、映像・演劇事業のコスト増や持分法投資損失等が響き、減収かつ営業利益は減益、最終赤字となりました。


※本記事は、松竹株式会社 の有価証券報告書(第159期、自 2024年3月1日 至 2025年2月28日、2025年5月28日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 松竹ってどんな会社?


1895年創業の老舗で、歌舞伎や映画の製作・興行を核に、不動産賃貸も手がける総合エンタテインメント企業です。

(1) 会社概要


1895年に大谷竹次郎が演劇興行を開始し、1920年には松竹キネマ合名社を創立して映画製作・配給へ進出しました。1924年に株式を上場し、日本の映画・演劇界を牽引してきました。2013年には歌舞伎座および歌舞伎座タワーを竣工し、劇場の運営と不動産収益の基盤を強化しています。2022年の市場区分見直しに伴い、プライム市場へ移行しました。

連結従業員数は1,439名、単体では602名体制です。大株主の構成は、筆頭株主が信託銀行、第2位が警備サービス大手のセコム、第3位が同社持分法適用関連会社であり劇場賃貸を行う歌舞伎座となっています。安定した株主構成のもと、伝統文化の継承とエンタテインメント事業を展開しています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 7.09%
セコム 4.12%
歌舞伎座 3.53%

(2) 経営陣


同社の役員は男性13名、女性2名の計15名で構成され、女性役員比率は13.3%です。代表取締役社長社長執行役員は髙橋敏弘氏です。社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
迫本 淳一 代表取締役会長 1978年松竹映画劇場入社。弁護士資格を持ち、1998年同社代表取締役副社長、2004年社長を経て、2023年5月より現職。
髙橋 敏弘 代表取締役社長社長執行役員 1990年同社入社。映像本部長、専務取締役などを歴任し、映像事業や事業開発の要職を経て、2023年5月より現職。
山根 成之 取締役副社長執行役員 1987年同社入社。演劇製作部長、演劇本部長などを歴任し、歌舞伎製作や演劇興行の要職を経て、2023年5月より現職。
秋元 一孝 取締役専務執行役員 1985年同社入社。映画興行部長、管理本部長などを歴任し、現在は不動産本部長も兼務。2024年5月より現職。
井上 貴弘 取締役常務執行役員 2005年同社入社。松竹芸能代表取締役社長、事業開発本部長などを歴任し、イノベーション推進等を担当。2023年5月より現職。


社外取締役は、小巻亜矢(サンリオエンターテイメント代表取締役社長)、上村達男(早稲田大学名誉教授)、丸山聡(StarshotPartners代表社員)、堀江正博(東急代表取締役社長)、野間自子(弁護士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「映像関連事業」「演劇事業」「不動産事業」および「その他」事業を展開しています。

映像関連事業


劇場用映画の製作・配給・興行、テレビドラマやアニメの制作、映像コンテンツの版権許諾、BS・CS放送事業などを行っています。顧客は一般消費者のほか、テレビ局、動画配信プラットフォーム、映画館など多岐にわたります。近年はアニメ作品や「男はつらいよ」等のライブラリー活用にも注力しています。

収益は、映画館でのチケット・物販収入、興行会社からの配給収入、放送事業者からの放送料収入、二次利用による版権収入等が柱です。運営は、製作・配給・ビデオ販売等を松竹が、映画興行を株式会社松竹マルチプレックスシアターズが、放送事業を松竹ブロードキャスティング株式会社等が担っています。

演劇事業


歌舞伎公演や一般演劇の企画・製作・興行を行っています。歌舞伎座、新橋演舞場、大阪松竹座、南座などの直営劇場や、巡業公演、シネマ歌舞伎などを通じてコンテンツを提供しています。また、俳優の斡旋や舞台衣裳、大道具等の製作・レンタルも手がけています。

収益は、主に劇場でのチケット販売収入やプログラム販売収入です。また、衣裳の賃貸料や舞台製作の対価も含まれます。運営は、企画・製作・興行を松竹、松竹芸能株式会社等が、衣裳を松竹衣裳株式会社が、大道具等を歌舞伎座舞台株式会社等が担当しています。

不動産事業


同社グループが保有するオフィスビルや商業施設等の不動産賃貸および管理を行っています。代表的な物件には「歌舞伎座タワー」「銀座松竹スクエア」などがあり、東銀座エリアを中心とした街づくりにも関与しています。

収益は、オフィスや店舗のテナントからの賃貸料収入および管理料収入です。運営は、松竹のほか、株式会社松竹サービスネットワーク、持分法適用関連会社の株式会社歌舞伎座や新橋演舞場株式会社などが行っています。

その他


映画・演劇作品のプログラムやキャラクター商品の企画・販売、イベント事業、音楽著作権の利用開発、新規事業開発などを行っています。

収益は、商品販売収入やイベント収入、配信コンテンツ収入等です。運営は主に松竹が担当し、音楽著作権については松竹音楽出版株式会社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高はコロナ禍の影響を受けた時期から回復傾向にありましたが、当期は微減となりました。利益面では、前期に回復を見せたものの、当期は営業利益が減少し、経常損益および最終損益は赤字に転落しています。

項目 2021年2月期 2022年2月期 2023年2月期 2024年2月期 2025年2月期
売上高 524億円 718億円 782億円 854億円 840億円
経常利益 -56億円 -28億円 14億円 29億円 -25億円
利益率(%) -21.8% -3.9% 1.7% 3.4% -3.0%
当期利益(親会社所有者帰属) -114億円 -18億円 55億円 30億円 -7億円

(2) 損益計算書


直近2期間を比較すると、売上高はわずかに減少しましたが、売上原価の減少により売上総利益率は改善傾向にあります。一方で販売費及び一般管理費が増加したことにより、営業利益は減少しました。

項目 2024年2月期 2025年2月期
売上高 854億円 840億円
売上総利益 360億円 358億円
売上総利益率(%) 42.1% 42.7%
営業利益 36億円 17億円
営業利益率(%) 4.2% 2.0%


販売費及び一般管理費のうち、人件費が111億円(構成比33%)、その他経費が111億円(同32%)、地代家賃が48億円(同14%)、広告宣伝費が39億円(同11%)を占めています。売上原価においては、興行経費や製作費などが主要な構成要素となっています。

(3) セグメント収益


映像関連事業はヒット作があったものの全体として減収減益となりました。演劇事業は公演数は確保しましたがコスト増等により損失幅が拡大しました。一方、不動産事業は主要物件の高稼働により増収増益となり、全体の利益を下支えしています。

区分 売上(2024年2月期) 売上(2025年2月期) 利益(2024年2月期) 利益(2025年2月期) 利益率
映像関連事業 458億円 437億円 26億円 4億円 1.0%
演劇事業 244億円 238億円 -7億円 -12億円 -5.0%
不動産事業 128億円 140億円 55億円 58億円 41.6%
その他 24億円 25億円 -6億円 -2億円 -9.5%
調整額 -24億円 -24億円 -32億円 -32億円 -
連結(合計) 854億円 840億円 36億円 17億円 2.0%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

松竹の2025年2月期で営業CFがマイナスとなった主因は、投資有価証券売却益の影響です。 この期には約44億円の投資有価証券売却益が発生しており、これは損益計算書上では営業外・特別利益として利益を押し上げますが、キャッシュフロー計算書では営業CFから控除されます。 そのため、減価償却費などのプラス要因がある一方で、この売却益調整が大きく効き、営業CFがマイナスとなっています。 言い換えると、本業キャッシュそのものが急激に悪化したというより、「投資有価証券売却益が大きく出たことで、営業CFが形式的にマイナス化した」構図です。

項目 2024年2月期 2025年2月期
営業CF 81億円 -6億円
投資CF -152億円 -37億円
財務CF 118億円 -15億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-0.7%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は44.6%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同グループは「日本文化の伝統を継承、発展させ、世界文化に貢献する」「時代のニーズをとらえ、あらゆる世代に豊かで多様なコンテンツをお届けする」というミッションを掲げています。このミッションに基づき、魅力あるコンテンツの提供と社外パートナーシップを通じて、株主からの信頼を得続けることを基本方針としています。

(2) 企業文化


同社は、伝統を活かしつつ変化する顧客の嗜好を取り込むことを重視しています。「ミッション」に則り、顧客の要望に応えることや、心の支えとなる映像・演劇コンテンツを提供することを使命としています。また、サステナビリティ基本方針に基づき、持続的成長と社会課題解決の両立を目指す姿勢を持っています。

(3) 経営計画・目標


劇場用映画や演劇といった中核事業は予想と実績の乖離が大きいため、特定の経営指標を目標とはせず、安定した収益基盤を着実に強化することを第一としています。現在は、収益性の高い企業グループを目指し、資産の効率的運用やコンテンツの水平展開を進めています。

(4) 成長戦略と重点施策


映像・演劇事業では、質の高いコンテンツの継続的な製作と、配信や海外利用等のライセンスビジネスへの展開による収益機会の拡大を目指しています。不動産事業では、東銀座エリアのブランド価値向上や新規テナント誘致による賃貸収益の確保に注力しています。また、独自の製作力強化やシネコンのサービス拡充も進めています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「多様性」「働く環境」「育成」を戦略の柱としています。多様な人材の確保に加え、フレックスタイム制や在宅勤務制度による働きやすい環境づくりを推進しています。育成面では、ビジネススキル研修や自己啓発支援のほか、グループ全体での研修を通じてミッションの浸透を図り、ウェルビーイングの実現を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年2月期 42.6歳 15.6年 8,471,399円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 27.0%
男性育児休業取得率 50.0%
男女賃金差異(全労働者) 71.5%
男女賃金差異(正規雇用) 80.1%
男女賃金差異(非正規雇用) 60.0%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、定期健康診断受診率(97.6%)、適正体重維持者率(64.8%)、有給休暇取得率(63.1%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 感染症拡大に関するリスク


映画館の営業短縮や休業、演劇公演の中止や延期が発生した場合、経営成績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。同社は専門家の意見を取り入れた感染症対策や各劇場の特性に応じた安全施策を徹底することで対応しています。

(2) 劇場用映画の興行成績に関するリスク


映画作品の興行成績は予測が困難で変動が大きいため、想定した成績に達しない作品が続いた場合、業績に影響を与える可能性があります。各種データに基づく作品選定や編成を行っていますが、不確実性は常に存在します。

(3) 知的財産権の侵害に関するリスク


海賊版や模倣品による権利侵害が発生しており、特に海外やインターネット上での侵害行為が長期化・大規模化した場合、収益に影響を及ぼす可能性があります。適切な対応に努めていますが、法規制等の問題から十分な保護を受けられないリスクがあります。

(4) 演劇事業の興行成績に関するリスク


出演俳優の体調不良や事故による出演不能、または公演の話題性や顧客嗜好の変化により入場者数が変動し、業績に影響を与える可能性があります。代役の確保や魅力ある公演の提供に努めていますが、興行収入が大きく左右されるリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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