※本記事は、王子ホールディングスの有価証券報告書(第102期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 王子ホールディングスってどんな会社?
紙・パルプ産業のリーディングカンパニーとして、多様な素材や包装資材をグローバルに提供しています。
■(1) 会社概要
1873年に抄紙会社として創立されました。1949年に苫小牧製紙として発足後、1960年に王子製紙に変更しました。2012年に持株会社体制へ移行し、現在の社名となりました。2014年にニュージーランドの事業拠点を取得したほか、2024年に欧州のサステナブル包装資材メーカーを買収するなどグローバル展開を進めています。
同社グループは、連結従業員数38,757名、単体464名規模の組織です。筆頭株主は資産管理業務等を行う信託銀行で、第2位も同様に信託銀行となっています。第3位には保険会社が名を連ねており、機関投資家や金融機関が中心の安定した株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 15.20% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 9.20% |
| 日本生命保険相互 | 2.90% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性5名の計14名で構成され、女性役員比率は35.7%です。代表取締役社長執行役員は磯野裕之氏が務めています。社外取締役比率は28.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 磯野裕之 | 代表取締役社長執行役員 | 1984年同社入社。王子マネジメントオフィス取締役、同社グループ経営委員、同社取締役専務グループ経営委員等を経て、2025年4月より現職。 |
| 鎌田和彦 | 代表取締役副社長執行役員 | 1983年丸紅入社。2013年王子マネジメントオフィス入社。王子木材緑化代表取締役社長、同社取締役専務グループ経営委員等を経て、2025年4月より現職。 |
| 長谷部明夫 | 取締役専務執行役員 | 1986年同社入社。王子産業資材マネジメント取締役、同社グループ経営委員、同社取締役常務グループ経営委員等を経て、2025年4月より現職。 |
| 田熊聡 | 取締役専務執行役員 | 1985年同社入社。王子グリーンリソース常務取締役、王子製紙常務取締役、同社取締役常務執行役員等を経て、2026年4月より現職。 |
| 加来正年 | 取締役 | 1978年旧日本パルプ工業入社。同社取締役常務グループ経営委員、同社代表取締役社長、同社代表取締役会長等を経て、2026年4月より現職。 |
社外取締役は、長井聖子(関西外国語大学外国語学部教授)、小川広通(元伊藤ハム米久ホールディングス取締役会長・指名委員長・報酬委員長)、福田佐知子(千葉市民協同法律事務所代表弁護士)、村木厚子(元厚生労働事務次官)です。
2. 事業内容
同社グループは、「生活産業資材」「機能材」「資源環境ビジネス」「印刷情報メディア」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 生活産業資材
同事業では、段ボール原紙や白板紙、包装用紙、紙器などの産業資材のほか、サステナブルパッケージング、液体紙容器、家庭紙や紙おむつなどの生活消費財を製造・販売しています。国内外の多様なパッケージング需要や日用品ニーズに応えています。
収益は、これらの製品の販売を通じて顧客から得ています。運営は王子マテリア、王子コンテナー、王子ネピアなどが国内展開を担い、海外ではOji Fibre Solutions、Walki Oyなどが各地域で製造・販売を行っています。
■(2) 機能材
同事業では、特殊紙、感熱紙や感熱フィルム、情報用紙、粘着紙や粘着フィルム、不織布などの高機能素材の製造・販売を行っています。環境配慮型素材や、電動車向けポリプロピレンフィルムなど高付加価値製品を展開しています。
収益は、各種機能性製品の販売代金として顧客から得ています。運営は王子エフテックス、王子イメージングメディア、王子タック、新タック化成などが担い、海外ではKANZAN Spezialpapiere GmbHなどが各地域で展開しています。
■(3) 資源環境ビジネス
同事業では、国内外における植林活動や森林経営を基盤に、原木や木材チップの調達・加工・販売、パルプの製造・販売、さらにはバイオマス発電などのエネルギー事業を展開しています。持続可能な森林資源を活用した総合的なビジネスを行っています。
収益は、木材やパルプの販売代金、および電力の売電収入として顧客から得ています。運営は王子木材緑化、王子グリーンリソースのほか、ブラジルのCelulose Nipo-Brasileira S.A.やニュージーランドのPan Pac Forest Products Ltd.などが担っています。
■(4) 印刷情報メディア
同事業では、新聞用紙や印刷・出版・情報用紙などの製造・販売を行っています。構造的な需要変化に対応するため、生産体制の最適化やコストダウンを徹底し、パルプ生産設備を活用した溶解パルプの生産などへの転換も進めています。
収益は、新聞社や出版社、印刷会社などへの各種用紙の販売代金として得ています。運営は主に王子製紙が国内市場を担い、中国市場等においては江蘇王子製紙有限公司などが製造および販売活動を行っています。
■(5) その他
報告セグメントに含まれない事業として、紙・パルプ・合成樹脂などの原料および製品の販売を行う商事事業、輸送・倉庫業を担う物流事業、機械類の設計製作を担うエンジニアリング事業、土木建築工事や不動産事業などを展開しています。
収益は、各サービスの提供や不動産賃貸・販売等を通じて顧客から得ています。運営は旭洋が商事事業を、王子物流が物流事業を、王子エンジニアリングがエンジニアリング事業を、王子不動産が不動産事業をそれぞれ担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は概ね拡大傾向にあり安定して推移していますが、経常利益は原燃料価格や物流費の高騰などの外部環境の変化を受け、減少トレンドが続いています。一方で当期利益については、直近で事業構造改善に伴う特別損失を計上しつつも、投資有価証券や固定資産の売却益などの特別利益を計上したことで大幅に増加しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 14702億円 | 17066億円 | 16963億円 | 18493億円 | 18617億円 |
| 経常利益 | 1351億円 | 950億円 | 860億円 | 686億円 | 405億円 |
| 利益率(%) | 9.2% | 5.6% | 5.1% | 3.7% | 2.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 239億円 | 251億円 | 230億円 | 353億円 | 1392億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の業績では、M&Aの効果などにより売上高が増加した一方で、売上総利益および営業利益は減少しています。国内外でのパルプ市況の悪化や物価上昇に伴う消費抑制による販売数量の減少などが影響し、利益率も低下傾向にあります。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 18493億円 | 18617億円 |
| 売上総利益 | 3494億円 | 3235億円 |
| 売上総利益率(%) | 18.9% | 17.4% |
| 営業利益 | 68億円 | 35億円 |
| 営業利益率(%) | 3.7% | 1.9% |
■(3) セグメント収益
セグメント別に見ると、主力の生活産業資材は国内外での価格修正やM&Aによる子会社化の寄与で増収を牽引しています。資源環境ビジネスとその他は前年並みを維持したものの、機能材と印刷情報メディアは、国内での事業売却や需要減少の影響により減収となりました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 生活産業資材 | 8467億円 | 8741億円 |
| 機能材 | 2214億円 | 2209億円 |
| 資源環境ビジネス | 3455億円 | 3463億円 |
| 印刷情報メディア | 2289億円 | 2132億円 |
| その他 | 2068億円 | 2071億円 |
| 連結(合計) | 18493億円 | 18617億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CF・財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業の状態(健全型)と言えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 944億円 | 1134億円 |
| 投資CF | -1549億円 | -125億円 |
| 財務CF | 610億円 | -936億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は41.0%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は経営理念として「革新的価値の創造」「未来と世界への貢献」「環境・社会との共生」の3つを掲げています。斬新な発想でチャレンジングなモノづくりを行い、グローバル展開を通じてあらゆる地域社会に革新的価値を提供するとともに、森林資源を核とした事業活動そのもので持続可能な社会の発展に貢献することを目指しています。
■(2) 企業文化
かつての経営者が「木を使うものは、木を植える義務がある」と説いた歴史的背景から、持続可能な森林経営や再生可能な資源の循環的利用をグループの強みとする文化が根付いています。「森林を健全に育て、その森林資源を活かした製品を創造し、社会に届けることで、時代を動かしていく」というパーパスを事業の根幹に据えています。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画2027では、「長期ビジョン2035」実現に向けた基盤を固める準備期として、資本効率の改善に重点を置いた取り組みを進めています。
* 営業利益1,200億円
■(4) 成長戦略と重点施策
「資本効率向上」「ポートフォリオ転換」「サステナビリティ促進」を基本方針としています。木質バイオマスビジネスとサステナブルパッケージを中核と位置づけ、研究開発や成長投資を集中させます。一方で非コア資産の売却や低収益事業の撤退・構造改革を進め、強靭な事業ポートフォリオへの転換と資本効率の向上を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「企業の力の源泉は人財にあり」という原則のもと、人財理念を体現する人材の「確保」「成長」「活躍」を三本柱としています。コンプライアンス・安全の徹底、インクルージョン&ダイバーシティ、実力主義に基づく公正な処遇とエンゲージメント向上を基盤に、専門人材の獲得や従業員の自律的な学びの支援を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 44.5歳 | 15.6年 | 8,496,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 14.7% |
| 男性育児休業取得率 | 110.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 73.4% |
| 男女賃金差異(正規) | 72.9% |
| 男女賃金差異(非正規) | 87.8% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用率(2.55%)、新卒採用女性総合職比率(47.2%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) イノベーションの進展による構造的な需要の変容
デジタルトランスフォーメーションの加速や生活様式の変化により、市場縮小等の構造的な需要の変容が進んでいます。これにより収益力の低下や設備更新の遅れが生じ、事業ポートフォリオに悪影響を及ぼす可能性があります。同社は資本効率を重視した投資管理や低収益事業の構造改革、新規事業の拡大により対応しています。
■(2) 国際市況の変動
同社が調達する木材チップや重油などの原燃料価格は、需要動向や各国の政策、地政学的要因により変動します。また、パルプの販売価格も国際市況に連動するため、これらの価格変動が業績に影響を及ぼす可能性があります。同社は調達先の多様化やサプライチェーンの強化、継続的なコストダウンにより影響の緩和に努めています。
■(3) 気候変動への対応
排出量取引等の環境規制強化によるエネルギー関連費用の増加や、極端な気象事象による操業停止、資産への損害が生じるリスクがあります。同社は2040年度の正味ゼロ・カーボン化を目標に掲げ、化石燃料から非化石燃料への転換やエネルギー消費効率の改善を進めるとともに、設備の耐災害性の強化に取り組んでいます。



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