旭化成 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

旭化成 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

旭化成は東京証券取引所プライム市場に上場し、ヘルスケア、住宅、マテリアルの3領域で多様な事業を展開する企業です。医薬・医療機器、建築請負、電子材料や樹脂などを提供しています。直近の業績は、医薬事業の利益成長や国内住宅事業の好調により、増収増益を達成しており、安定した成長基盤を有しています。


※本記事は、旭化成株式会社の有価証券報告書(第135期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。

1. 旭化成ってどんな会社?


同社はヘルスケア、住宅、マテリアルの3領域で、人々のいのちとくらしに貢献する多様な事業を展開しています。

(1) 会社概要


同社は1922年設立の旭絹織をルーツとし、1931年に設立されました。1949年に株式上場を果たし、1972年には住宅事業へ本格進出しました。2003年の持株会社制移行を経て、2016年に現在の事業持株会社体制へ移行しています。近年は海外医療企業の買収などヘルスケア領域の拡大を推進しています。

現在の従業員数は連結で47,895名、単体で8,233名です。大株主の状況を見ると、筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位も同様に日本カストディ銀行となっています。第3位には事業会社である日本生命保険が名を連ねており、機関投資家を中心とした安定的な資本構成です。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 14.72%
日本カストディ銀行(信託口) 5.96%
日本生命保険相互 3.01%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性3名の計13名で構成され、女性役員比率は23.1%です。代表取締役取締役社長は工藤幸四郎氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
工藤幸四郎 代表取締役取締役社長 1982年入社。旭化成せんい執行役員、同社繊維事業本部長、パフォーマンスプロダクツ事業本部長などを経て、2022年4月より現職。
小堀秀毅 取締役会長 1978年入社。旭化成エレクトロニクス代表取締役社長、同社代表取締役兼専務執行役員、取締役社長兼社長執行役員などを経て、2022年4月より現職。
堀江俊保 代表取締役 1985年入社。旭化成ケミカルズ経営総括部長、同社石油化学事業本部企画管理部長、上席執行役員、常務執行役員などを経て、2024年4月より現職。
川瀬正嗣 取締役 1990年入社。同社石油化学事業本部基礎化学品事業部長、製造統括本部製造企画部長、常務執行役員などを経て、2025年4月より現職。


社外取締役は、前田裕子氏(元九州大学理事)、松田千恵子氏(元ブーズ・アンド・カンパニー副社長)、山下良則氏(元リコー社長)、小川啓之氏(元小松製作所社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「ヘルスケア」「住宅」「マテリアル」および「その他」事業を展開しています。

(1) ヘルスケア


医療用医薬品、ウイルス除去フィルター、AEDや着用型自動除細動器などの医療機器を提供しています。世界中の医療機関や医療従事者、患者が主な顧客です。

医療機関や製薬企業への製品・サービスの販売により収益を得ています。運営は主に旭化成ファーマ、旭化成ライフサイエンス、ZOLL Medical Corporationなどの子会社が行っています。

(2) 住宅


戸建・集合住宅の建築請負、不動産関連事業、リフォーム、海外住宅事業に加え、軽量気泡コンクリートや断熱材などの建材事業を展開しています。一般消費者や法人が顧客です。

住宅の建築請負代金や建材の販売代金、不動産の賃貸・売買手数料等を主な収益源としています。運営は旭化成ホームズや旭化成建材などの子会社が担っています。

(3) マテリアル


電子材料、自動車内装材、リチウムイオン電池用セパレータ、繊維、樹脂、基礎原料など、幅広い産業向けの高付加価値素材や部品を提供しています。多様な製造業が顧客です。

各種メーカーへの素材や部品の販売により収益を獲得しています。運営は旭化成エレクトロニクス、旭化成バッテリーセパレータ、旭化成アドバンスなどの子会社が幅広く展開しています。

(4) その他


プラントエンジニアリング、環境エンジニアリング、各種リサーチや情報提供、人材派遣・紹介事業などを展開し、グループ内外の企業を顧客としています。

エンジニアリングの請負代金やサービスの提供に対する手数料により収益を得ています。運営はAsahi Kasei America, Inc.等の子会社が実施しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は概ね右肩上がりで推移しており、着実な事業規模の拡大が見られます。利益面では一時的に赤字を計上する期もありましたが、直近にかけて回復傾向にあり、利益率も改善を見せています。成長投資に伴う影響を吸収しつつ、収益力の強化が進んでいる状況がうかがえます。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 2兆4613億円 2兆7265億円 2兆7849億円 3兆373億円 3兆745億円
経常利益 2121億円 1209億円 901億円 1935億円 2304億円
利益率(%) 8.6% 4.4% 3.2% 6.4% 7.5%
当期利益(親会社所有者帰属) 525億円 -2014億円 1702億円 370億円 1130億円

(2) 損益計算書


売上高が増加する中、売上総利益も順調に拡大しており、売上総利益率の改善が見られます。これに伴い営業利益も伸長し、本業における稼ぐ力が着実に高まっていることが分かります。高付加価値事業へのシフトや価格転嫁の進展が、全体の収益性向上に寄与していると言えます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 3兆373億円 3兆745億円
売上総利益 9583億円 10086億円
売上総利益率(%) 31.6% 32.8%
営業利益 2119億円 2312億円
営業利益率(%) 7.0% 7.5%


販売費及び一般管理費のうち、給与・賞与等が3,200億円(構成比41%)、減価償却費が862億円(同11%)、研究開発費が809億円(同10%)を占めています。

(3) セグメント収益


ヘルスケアと住宅セグメントが増収増益を牽引しています。ヘルスケアは医薬事業の好調や買収効果が寄与し、住宅は建築請負の単価上昇により利益が伸長しました。一方、マテリアルセグメントはエレクトロニクス需要が旺盛だったものの、石化事業の定期修理などの影響で減収減益となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
ヘルスケア 6159億円 6641億円 640億円 835億円 12.6%
住宅 10359億円 10774億円 959億円 998億円 9.3%
マテリアル 13688億円 13062億円 799億円 683億円 5.2%
その他 168億円 267億円 29億円 39億円 14.6%
連結(合計) 3兆373億円 3兆745億円 2119億円 2312億円 7.5%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業であると言えます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 3015億円 3031億円
投資CF -3812億円 -1069億円
財務CF 1446億円 -2454億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は50.5%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献します。」というグループミッションを掲げています。また、「健康で快適な生活」と「環境との共生」の実現を通して社会に新たな価値を提供することをグループビジョンとして定めており、持続可能な社会の実現に向けて多様なアプローチで事業を展開しています。

(2) 企業文化


グループバリュー(共通の価値観)として「誠実」「挑戦」「創造」を掲げています。すべてのステークホルダーに対して「誠実」に経営し、事業環境の変化に積極果敢に「挑戦」し、絶えず新たな価値を「創造」することで企業の社会的責任を果たしていく文化があります。また、自由闊達なコミュニケーションを重視する風土も根付いています。

(3) 経営計画・目標


「中期経営計画2027 ~Trailblaze Together~」を策定し、持続可能な社会への貢献と企業価値向上の好循環を目指しています。本計画の最終年度である2027年度に向けて、明確な財務目標を設定して各施策を推進しており、長期的にはさらに高い目標を見据えています。

* 営業利益2,700億円
* のれん償却前営業利益3,060億円
* ROE9%、ROIC6%

(4) 成長戦略と重点施策


事業ポートフォリオの変革を加速させています。ヘルスケアや海外住宅などの「重点成長」事業へ経営資源を集中投下して利益成長を図る一方、マテリアル領域では低収益事業の構造転換を進め、資本効率の改善に取り組みます。あわせて、グリーントランスフォーメーション(GX)の推進や多様な無形資産の活用により、独自のビジネスモデルを持続的に創出していく戦略です。

* マテリアル領域の2024年度売上高の約20%に相当する事業の構造転換

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は「人は財産、すべては人から」という考えのもと、従業員に求める行動指針として「A-Spirit(野心的な意欲、健全な危機感、迅速果断、進取の気風)」を掲げています。一人ひとりが自律的に学びキャリアを築く「終身成長」と、多様性を活かして新たな価値を生む「共創力」を人材戦略の柱とし、社員の活力向上と組織の持続的成長の両立を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 41.9歳 17.1年 8,483,519円

※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 7.7%
男性育児休業取得率 99.4%
男女賃金差異(全労働者) 76.6%
男女賃金差異(正規雇用) 83.2%
男女賃金差異(パート・有期) 69.3%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、ラインポスト+高度専門職における女性比率(5.5%)、従業員エンゲージメント調査における「活力」指標が好意的な状態の回答者の割合(58.5%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 事故発生および環境安全規制への対応

国内外に広範な生産拠点を有しており、労働災害や保安事故、環境安全に関する法規制違反が発生した場合、操業停止や社会的信用の失墜を招き、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。同社は設備点検の強化や安全文化の醸成、法規制遵守のチェック体制構築によりリスク低減に努めています。

(2) 製品の品質不正および認証不備

多様な製品を提供しているため、設計・検査の不備や不適切な顧客対応、品質保証に関わる規格等の違反が生じた場合、大規模なリコールやブランド価値の毀損につながるリスクがあります。この対策として、品質経営セミナーの実施や現場との対話、各拠点での厳格な品質点検を推進しています。

(3) 経済安全保障とグローバルサプライチェーンの分断

世界各国で展開する事業は、経済制裁や輸出管理の強化といった経済安全保障政策の影響を受けやすく、地政学的問題による取引中断や物流の停滞が事業遂行を阻害するおそれがあります。同社は、調達ルートの多様化や適切な在庫水準の維持を通じて、強靭なサプライチェーンの構築を図っています。

(4) サイバー攻撃によるシステム停止と技術情報流出

巧妙化するサイバー攻撃によって社内システムが停止した場合、事業継続が困難になるおそれがあります。また、同社の競争力の源泉である独自技術やノウハウが外部に流出した場合、競争優位性が損なわれるリスクも存在します。これに対し、セキュリティツールの導入やアクセス監視の強化を進めています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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