旭化成 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

旭化成 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場の総合化学メーカー。マテリアル、住宅、ヘルスケアの3領域で事業を展開し、「ヘーベルハウス」や「サランラップ」等のブランドを有します。直近の業績は、マテリアル領域の利益回復や海外住宅、クリティカルケア事業の伸長により、増収増益を達成しました。


※本記事は、旭化成株式会社 の有価証券報告書(第134期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 旭化成ってどんな会社?


マテリアル、住宅、ヘルスケアの3領域を展開する総合化学メーカー。多角化経営による安定性と成長性が特徴です。

(1) 会社概要


同社は1931年に延岡アンモニア絹絲として設立され、1949年に株式上場しました。1972年には住宅事業「ヘーベルハウス」の本格展開を開始し、事業の柱へと成長させました。2012年には米国ZOLL Medical Corporationを買収しクリティカルケア事業へ進出、2016年には事業持株会社体制へ移行するなど、M&Aや組織再編を通じて事業ポートフォリオの大胆な変革を続けています。

2025年3月31日現在、連結従業員数は50,352人、単体では8,288人です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位も同様に信託銀行、第3位は生命保険会社となっており、国内外の機関投資家が主な株主構成を占めています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 16.54%
日本カストディ銀行(信託口) 6.58%
日本生命保険相互会社 3.01%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性3名(社外取締役2名、社外監査役1名含む)の計14名で構成され、女性役員比率は21.4%です。代表取締役取締役社長は工藤幸四郎氏が務めています。社外取締役比率は28.6%です。

氏名 役職 主な経歴
小堀 秀毅 取締役会長 1978年入社。旭化成エレクトロニクス社長等を経て、2016年旭化成社長に就任。2022年4月より現職。
工藤 幸四郎 代表取締役取締役社長 1982年入社。繊維事業本部長、パフォーマンスプロダクツ事業本部長等を歴任。2022年4月より現職。
久世 和資 取締役 日本IBMにてCTO等を務めた後、2020年入社。デジタル共創本部長等を歴任し、2024年4月より副社長執行役員。
堀江 俊保 代表取締役 1985年入社。経営総括部長、石油化学事業本部企画管理部長等を歴任。2024年4月より専務執行役員。
川瀬 正嗣 取締役 1990年入社。製造統括本部長等を歴任。2025年4月より専務執行役員。


社外取締役は、岡本毅(元東京瓦斯社長)、前田裕子(元ブリヂストン執行役員)、松田千恵子(東京都立大学教授)、山下良則(リコー会長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」および「その他」事業を展開しています。

(1) マテリアル


環境ソリューション、モビリティ&インダストリアル、ライフイノベーションの3事業で構成され、石油化学製品、セパレータ、電子部品、繊維等を製造・販売しています。主な顧客は自動車、電子機器、衣料品メーカー等です。デジタル社会や環境対応車の普及に伴い、高付加価値素材やソリューションを提供しています。

収益は主に製品の販売対価として顧客から受け取ります。運営は、旭化成が主体となり、旭化成エレクトロニクス、旭化成ホームプロダクツ、Sage Automotive Interiors, Inc.などの国内外の関係会社と共に行っています。

(2) 住宅


「ヘーベルハウス」を中心とする建築請負、不動産流通、リフォーム、および断熱材や基礎杭などの建材事業を展開しています。主な顧客は住宅購入者や建築業者です。国内では都市部を中心に高品質な住まいを提供し、海外では米国・豪州で住宅事業を展開しています。

収益は、建築請負代金、不動産販売・仲介手数料、リフォーム工事代金、建材販売代金等から構成されます。運営は主に旭化成ホームズ、旭化成建材、旭化成不動産レジデンス、および海外の現地法人が行っています。

(3) ヘルスケア


医薬、医療、クリティカルケアの3事業を展開しています。医薬品、ウイルス除去フィルター等の医療機器、AED(自動体外式除細動器)等の救命救急医療機器を提供しています。主な顧客は医療機関、製薬会社、一般企業等です。グローバルな事業展開を加速させています。

収益は、医薬品や医療機器の販売対価、CDMO(医薬品開発製造受託)等のサービス料から得ています。運営は旭化成ファーマ、旭化成メディカル、ZOLL Medical Corporationなどの関係会社が担っています。

(4) その他


エンジニアリング、情報提供、人材派遣などのサービス事業を展開しています。グループ内の各事業を支えるとともに、外部顧客に対しても専門的なサービスを提供しています。

収益は、エンジニアリング業務の請負代金、情報提供サービス料、人材派遣料等から得ています。運営は旭化成(中国)投資有限公司などの関係会社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は増加傾向にあり、特に直近の2025年3月期は3兆円を突破しました。利益面では2023年3月期に一時的な損失計上により当期純損失となりましたが、その後回復し、2025年3月期は営業利益、当期純利益ともに大幅な増益を達成しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 21,061億円 24,613億円 27,265億円 27,849億円 30,373億円
経常利益 1,780億円 2,121億円 1,209億円 901億円 1,935億円
利益率(%) 8.5% 8.6% 4.4% 3.2% 6.4%
当期利益(親会社所有者帰属) 798億円 1,619億円 -919億円 438億円 1,350億円

(2) 損益計算書


直近2期間を比較すると、売上高の増加に伴い売上総利益が増加しています。営業利益率も改善しており、本業の収益性が高まっていることがわかります。売上原価率や販管費率は概ね安定しており、効率的な事業運営が継続されていることがうかがえます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 27,849億円 30,373億円
売上総利益 8,160億円 9,583億円
売上総利益率(%) 29.3% 31.5%
営業利益 1,407億円 2,119億円
営業利益率(%) 5.1% 7.0%


販売費及び一般管理費のうち、給与・賞与等が3,047億円(構成比41%)、研究開発費が808億円(同11%)を占めています。売上原価については内訳の詳細記載はありませんが、製造業としての原材料費や労務費が主要な構成要素と考えられます。

(3) セグメント収益


各セグメントとも増収となりました。特にマテリアルセグメントは交易条件の改善等により利益が倍増し、全体の増益を牽引しました。住宅セグメントも価格転嫁等の効果で増益、ヘルスケアセグメントも主力製品の販売伸長により増益となり、全セグメントで収益性が向上しています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
マテリアル 12,617億円 13,688億円 426億円 874億円 6.4%
住宅 9,544億円 10,359億円 830億円 959億円 9.3%
ヘルスケア 5,538億円 6,159億円 485億円 640億円 10.4%
その他 150億円 168億円 32億円 29億円 17.5%
調整額 - - -364億円 -384億円 -
連結(合計) 27,849億円 30,373億円 1,407億円 2,119億円 7.0%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は、営業活動で得た資金と財務活動による調達資金を用いて、積極的な投資活動を行う「積極型」のキャッシュ・フロー状態にあります。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 2,953億円 3,015億円
投資CF -1,426億円 -3,812億円
財務CF -943億円 1,446億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.4%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は46.3%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献します。」というグループミッションを掲げています。このミッションのもと、「健康で快適な生活」と「環境との共生」の実現を通して、社会に新たな価値を提供することをグループビジョン(目指す姿)としています。

(2) 企業文化


同社は「誠実」「挑戦」「創造」をグループバリュー(共通の価値観)として定めています。すべてのステークホルダーに対し「誠実」に経営することを通じて、社会課題解決や変化に「挑戦」し、新たな価値を「創造」することで社会的責任を果たすことを基本方針としています。また、従業員には「A-Spirit」(野心的な意欲、健全な危機感、迅速果断、進取の気風)を求めています。

(3) 経営計画・目標


2025年度から2027年度までの中期経営計画「中期経営計画2027 ~Trailblaze Together~」を策定しています。「持続可能な社会への貢献」と「持続的な企業価値向上」の好循環を目指し、以下の数値目標を掲げています。

* 2027年度営業利益:2,700億円
* 2027年度ROIC:6%
* 2027年度ROE:9%

(4) 成長戦略と重点施策


「Diversity × Specialty」を進化させ、投資成果創出による利益成長と構造転換・生産性向上による資本効率改善を目指します。事業を10の区分に分け、医薬、クリティカルケア、海外住宅などを利益成長ドライバーと位置づけ、重点的にリソースを配分します。一方で、マテリアル領域を中心に構造転換を加速させます。

* 拡大関連投資:3年間で6,700億円
* 事業投資:キャッシュ・アウトの約80%

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は「終身成長」と「共創力」を人財戦略の柱としています。社員一人ひとりが自律的にキャリアを形成し挑戦・成長を続けること、多様な人財がつながり合い新たな価値を共創することを重視しています。そのために、高度専門職制度の拡充、公募人事制度による異動促進、学習プラットフォーム「CLAP」の活用などを推進し、挑戦的風土の強化を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 41.8歳 14.8年 8,000,906円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 7.5%
男性育児休業取得率 95.5%
男女賃金差異(全労働者) 76.8%
男女賃金差異(正規雇用) 83.7%
男女賃金差異(非正規雇用) 67.9%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者の雇用率(2.66%)、高度専門職の人数(373名)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) グローバルサプライチェーンにおけるリスク


経済安全保障政策や地政学的問題、自然災害等により、サプライチェーンが分断・途絶するリスクがあります。特に米中対立や地域紛争の影響による原材料調達難やコスト増、輸出規制等が懸念されます。同社は調達ルートの多様化や在庫確保、リスク監視体制の強化により対応を進めています。

(2) M&Aに関するリスク


成長戦略の一環として大型のM&Aを実施しており、のれんや無形固定資産を多額に計上しています。買収後の事業統合が遅延したり、事業計画通りの収益が得られなかった場合、減損損失が発生し業績に悪影響を及ぼす可能性があります。慎重なデューデリジェンスと統合プロセスの管理に努めています。

(3) 国内外の生産拠点における事故発生リスク


国内外に多数の工場を有しており、火災、爆発、漏洩等の事故や労働災害が発生した場合、操業停止や損害賠償、社会的信用の失墜により業績に重大な影響を与える可能性があります。保安防災や労働安全衛生的活動を強化し、安全文化の醸成に取り組んでいます。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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