※本記事は、ヤマハの有価証券報告書(第202期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. ヤマハってどんな会社?
アコースティックとデジタル技術を融合した楽器事業や音響機器事業をグローバルに展開する企業です。
■(1) 会社概要
1887年に創業者がオルガン修理を行ったことに始まり、1897年に日本楽器製造を設立しました。1900年にピアノ、1966年に管楽器の製造を開始し、1987年に現在のヤマハに社名を変更しました。近年は独Steinberg社や米Line 6社などを買収し、音楽制作・配信分野にも事業を拡大しています。
従業員数は連結で17,886名、単体で3,449名です。大株主については、筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位も同様に信託銀行となっており、第3位には生命保険会社が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 22.27% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 8.51% |
| 住友生命保険相互(常任代理人 日本カストディ銀行) | 4.98% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性13名、女性2名の計15名で構成され、女性役員比率は13.0%です。代表執行役社長は山浦敦氏が務めており、社外取締役比率は40%(15名中6名)です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 山浦敦 | 取締役 代表執行役社長 |
1992年同社入社。音響技術開発部長、電子楽器事業部長、楽器・音響営業本部副本部長等を経て2024年より現職。 |
| 中田卓也 | 取締役 指名委員 |
1981年同社入社。ヤマハコーポレーションオブアメリカ社長、同社代表取締役社長等を経て2024年より現職。 |
社外取締役は、ポール・キャンドランド(元ウォルト・ディズニー・カンパニー・アジアプレジデント・報酬委員長)、篠原弘道(元日本電信電話代表取締役副社長・指名委員長)、吉澤尚子(元富士通執行役員常務)、江幡奈歩(阿部・井窪・片山法律事務所パートナー)、伊藤秀二(元カルビー取締役社長)、野上宰門(元日本精工代表執行役副社長・監査委員長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「楽器」「音響機器」および「その他」の事業を展開しています。
■楽器
アコースティックピアノや電子楽器、管弦打楽器などの楽器製品のほか、防音室の提供や国内外での音楽教室・英語教室の運営、楽譜等の出版や音楽配信まで、幅広い音楽関連の製品・サービスを提供しています。初心者からプロフェッショナルまで多様な顧客のニーズに応えています。
顧客からの製品購入代金や音楽教室の受講料、楽譜などのコンテンツ販売から収益を得ています。事業の運営は同社のほか、ヤマハミュージックジャパンや海外の製造・販売子会社などが各地域で展開し、グローバルな開発・生産・販売体制を構築しています。
■音響機器
ホームオーディオ機器をはじめ、音楽制作・配信機器、業務用音響機器、ネットワーク機器、モビリティ音響機器などのソリューションを提供しています。コンシューマー向けから著名なホールや商業空間などのBtoB領域まで、最適な音環境を求める顧客に価値を届けています。
顧客からの音響機器の購入代金や、企業・施設向けのシステム導入費用から収益を得ています。運営は同社を中心に、ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングスやSteinberg Media Technologies社などのグループ企業が連携して行っています。
■その他
楽器の製造・販売を通じて蓄積した木材加工や塗装の技術、生産ノウハウを生かし、自動車用内装用意匠パネル製品やFA機器、ゴルフ用品の提供、リゾート施設の運営などを行っています。なお、ゴルフ用品事業については当期に終了を決定しています。
顧客からの内装部品やFA機器などの購入代金、リゾート施設の利用料などから収益を得ています。運営は同社やヤマハファインテック、ヤマハリゾートなどの子会社が行い、それぞれの専門領域において高品質な製品とサービスを提供しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績を見ると、売上収益は4,000億円台で堅調に推移し、直近では円安の追い風や電子楽器等の販売増により増収となっています。一方で、税引前利益や利益率は原材料費や物流費等のコスト上昇、構造改革費用の計上などが影響し、増減を繰り返しながら推移しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 4082億円 | 4514億円 | 4629億円 | 4621億円 | 4653億円 |
| 税引前利益 | 530億円 | 506億円 | 376億円 | 225億円 | 353億円 |
| 利益率(%) | 13.0% | 11.2% | 8.1% | 4.9% | 7.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 373億円 | 382億円 | 296億円 | 13億円 | 237億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益を比較すると、売上収益は微増で推移しているものの、売上総利益は減少傾向にあります。一方で、営業利益は増益となっており、利益率も改善を見せています。コスト構造の変化や構造改革への取り組みが各段階の利益に影響を与えていることが窺えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 4621億円 | 4653億円 |
| 売上総利益 | 544億円 | 425億円 |
| 売上総利益率(%) | 11.8% | 9.1% |
| 営業利益 | 207億円 | 293億円 |
| 営業利益率(%) | 4.5% | 6.3% |
■(3) セグメント収益
売上構成を見ると、主力である楽器事業が全体の約65%を占め、電子楽器やギターの販売好調により前期比で増収を達成しています。一方、音響機器事業は業務用機器の高需要一巡などにより減収となり、その他事業もゴルフ用品の販売減等により微減となりました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 楽器 | 2961億円 | 3049億円 |
| 音響機器 | 1480億円 | 1427億円 |
| その他 | 182億円 | 180億円 |
| 調整額 | -3億円 | -2億円 |
| 連結(合計) | 4621億円 | 4653億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 553億円 | 458億円 |
| 投資CF | 81億円 | -79億円 |
| 財務CF | -631億円 | -378億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.1%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は77.0%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「感動を・ともに・創る:私たちは、音・音楽を原点に培った技術と感性で、新たな感動と豊かな文化を世界の人々とともに創りつづけます」を企業理念に掲げています。また、ブランドプロミスとして「個性、感性、創造性を発揮し、自ら一歩踏み出そうとする人々の勇気や情熱を後押しする存在でありたい」という思いを込めた「Make Waves」を制定し、こころ豊かなくらしの実現を目指しています。
■(2) 企業文化
企業経営の軸となる「ヤマハフィロソフィー」を体系化し、全従業員が日々の拠り所とすべき行動指針「ヤマハウェイ」を定めています。これには「志を抱く」「誠実に取り組む」「自らが動く」「枠を超える」「やり切る」が含まれます。また、製品・サービスのこだわりを示す品質指針「ヤマハクオリティー(卓越・本質・革新)」を掲げ、常にお客様の視点に立って期待を超える価値を生み出す文化を大切にしています。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画「Rebuild & Evolve」において、財務目標と重点戦略のKPIを設定しています。特に財務目標の達成に執着し、短期的な収益改善と中長期的な成長基盤づくりをバランスよく進める計画です。
* 年平均売上成長率:5%
* 最終年度のROE:10%
■(4) 成長戦略と重点施策
新中期経営計画では「強固な事業基盤の再構築」「未来を創る挑戦」「経営基盤の強化」の3つを戦略方針としています。既存事業の抜本的な見直しによって収益力を回復させるとともに、楽器の演奏体験支援や車載オーディオ・商業空間向けなど隣接領域へのドメイン拡大を図ります。また、資本・資産効率の向上や多様な人材の活躍推進を通じた経営基盤の強化にも注力します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「組織力強化と個の成長を後押しする仕組みの構築」を重点テーマに掲げ、経営戦略に連動した人材マネジメントを推進しています。社内公募や基幹職ライセンス制度による自律的なキャリア形成を支援するとともに、国内外の多様な領域での採用強化や、タレントマネジメントシステムを活用した最適配置・育成を実施しています。また、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンを推進し、挑戦と成長を促す風土醸成に努めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 43.4歳 | 18.1年 | 7,947,497円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 10.0% |
| 男性育児休業取得率 | 80.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 74.5% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 77.1% |
| 男女賃金差異(パート・有期) | 72.0% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、グローバルでの管理職女性比率(19.6%)、働きがい指標の肯定的回答率(67%)、組織風土指標の肯定的回答率(58%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 事業環境の構造的変化
海外売上収益が7割以上を占めており、各国の経済状況や市場環境の影響を強く受けます。世界的な景気後退や消費者の購買行動のオンラインシフトなどが進む中、顧客ニーズに合わせた製品・サービスを提供できない場合、販売減や収益悪化につながる可能性があります。
■(2) サプライチェーンと調達リスク
楽器製造において良質な木材(希少材を含む)等の特定の部材を使用するため、環境変動等による入手困難や価格高騰のリスクがあります。また、地政学上の問題による物流の混乱や、外部委託先の品質問題が生じた場合、生産の遅れやブランド価値の毀損を招く恐れがあります。
■(3) 為替・金利の変動リスク
グローバルに製造・販売を行っているため、外貨建取引において為替レート変動の影響を受けます。特にユーロや米ドル等の主要通貨の変動は業績に直結し、当初の事業計画を下回る結果をもたらす可能性があるため、柔軟な価格設定やグローバルな工程再配置で対応を図っています。



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