※本記事は、日本航空株式会社の有価証券報告書(第77期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 日本航空ってどんな会社?
国内外を結ぶ航空運送事業を中心に、LCCやマイル活用による多様な非航空事業を展開しています。
■(1) 会社概要
1951年に旧会社が設立され、1953年に日本航空株式会社法に基づき新たに設立されました。1954年には本邦初となる国際線定期輸送を開始し、1987年に完全民営化を果たしました。2002年に日本エアシステムと経営統合を行い、2012年に東京証券取引所市場第一部へ再上場しました。
従業員数は連結39,076名、単体14,627名です。大株主の筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位も資産管理や決済業務を担う日本カストディ銀行となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 16.63% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.64% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 | 2.51% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性3名の計14名で構成され、女性役員比率は21.4%です。代表取締役社長執行役員は鳥取三津子氏が務めています。社外取締役の比率は21.4%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 鳥取三津子 | 代表取締役社長執行役員 | 1985年入社。客室安全推進部長、客室本部長、カスタマー・エクスペリエンス本部長などを経て、2024年4月より現職。 |
| 赤坂祐二 | 取締役会長 | 1987年入社。JALエンジニアリング代表取締役社長、同社代表取締役社長執行役員グループCEOなどを歴任し、2025年4月より現職。 |
| 斎藤祐二 | 代表取締役副社長執行役員 | 1988年入社。国際路線事業部長、経営企画本部長などを経て、2023年にグループCFOに就任し、2024年4月より現職。 |
| 青木紀将 | 取締役副社長執行役員 | 1989年入社。日本トランスオーシャン航空代表取締役社長、総務本部長などを経て、2024年6月より現職。 |
| レゲット ロス | 取締役専務執行役員 | 1985年入社。国際提携部副部長、路線事業本部副本部長などを経て、2026年6月より現職。 |
| 柏頼之 | 取締役 | 1986年入社。旅客販売統括本部企画部長、総合政策センター担当などを経て、2026年4月より現職。 |
| 中川由起夫 | 取締役常務執行役員 | 1990年入社。JALエンジニアリング執行役員、調達本部長などを経て、2025年6月より現職。 |
社外取締役は、柳弘之(元ヤマハ発動機社長)、三屋裕子(元日立製作所入社・JOC副会長)、菰田正信(元三井不動産社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「フルサービスキャリア事業」、「LCC事業」、「マイル/金融・コマース事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) フルサービスキャリア事業
世界と日本、都市と地域をつなぐ航空運送事業や、自社旅客機貨物スペースおよび貨物専用機を組み合わせた貨物郵便事業を提供しています。主な顧客は国内外の旅客および貨物荷主です。
収益源は旅客からの運賃や荷主からの貨物運送料です。運営は主に日本航空、ジェイエア、日本エアコミューター、北海道エアシステム、日本トランスオーシャン航空などが担っています。
■(2) LCC事業
北米やアジア、日本国内や中国などを結ぶ中長距離および短距離のローコストキャリアとしての航空運送事業を提供しています。価格を重視する国内外の旅行者やビジネス客が主な顧客です。
収益源は旅客からの運賃および付帯サービスに係る各種手数料です。運営は主にZIPAIR Tokyo、スプリング・ジャパンなどが担っています。
■(3) マイル/金融・コマース事業
会員顧客に対するマイレージプログラムの運営やクレジットカードサービス、卸売業・小売業などを通じた商品の販売を提供しています。マイレージ会員や提携企業が主な顧客です。
収益源は提携他社からのポイント発行手数料、カード会員からの会費や決済手数料、商品販売による代金などです。運営は主にJALマイレージバンク、ジャルカード、JALUXなどが担っています。
■(4) その他事業
航空運送を利用した旅行の企画販売や、システム開発・運用、外国航空会社便のグランドハンドリングサービスの受託等を提供しています。国内外の旅行者や提携航空会社が主な顧客です。
収益源は旅行商品の販売代金、システム開発の受託料、グランドハンドリングの業務受託料などです。運営は主にジャルパック、JALデジタルなどが担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績推移を見ると、売上収益はコロナ禍の影響から回復を続け、直近では2兆円を突破しています。当期利益も黒字転換以降は順調に拡大しており、力強い成長軌道に乗っていることが伺えます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 6,827億円 | 13,756億円 | 16,519億円 | 18,441億円 | 20,125億円 |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -1,776億円 | 344億円 | 955億円 | 1,070億円 | 1,376億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の収益構造を見ると、売上収益は順調に増加しており、営業利益もそれに伴って拡大しています。コストコントロールと収益性の向上が両立していることがわかります。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 18,441億円 | 20,125億円 |
| 営業利益 | 1,686億円 | 2,073億円 |
| 営業利益率(%) | 9.1% | 10.3% |
販売費及び一般管理費のうち、人件費が451億円(構成比24.5%)、社外役務費が399億円(同21.7%)を占めています。
■(3) セグメント収益
各セグメントの売上収益を見ると、主力であるフルサービスキャリア事業が牽引して全体の売上を押し上げています。また、LCC事業やマイル・金融・コマース事業も着実に売上を伸ばしており、非航空事業領域への展開も順調に進んでいることがわかります。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| フルサービスキャリア事業 | 14,518億円 | 15,875億円 |
| LCC事業 | 1,041億円 | 1,149億円 |
| マイル/金融・コマース事業 | 2,004億円 | 2,223億円 |
| その他 | 2,523億円 | 2,591億円 |
| 調整額 | -1,645億円 | -1,712億円 |
| 連結(合計) | 18,441億円 | 20,125億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがプラスとなっており、営業で利益を出し、外部からの資金調達も活用しながら積極的な投資を行っている「積極型」の状態といえます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 3,815億円 | 3,949億円 |
| 投資CF | -2,811億円 | -1,831億円 |
| 財務CF | -649億円 | 446億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は12.2%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は31.9%であり、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
日本航空は「JALグループ企業理念」として、「全社員の物心両面の幸福を追求し、一、お客さまに最高のサービスを提供します。一、企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します。」と掲げています。社会インフラとしての責務を果たし、サステナブルでウェルビーイングな未来の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
企業理念を実現するための行動指針として「JALフィロソフィ」を定めています。全社員がこれを判断基準とし、本音でぶつかり合い、信頼しあえる仲間として日々の業務を推進する文化が醸成されています。また、存立基盤である「安全」を全ての活動の礎とし、世界最高水準の安全品質を追求するプロフェッショナリズムが重視されています。
■(3) 経営計画・目標
「JALグループ経営ビジョン2035」において、2030年度の経営目標を定めています。
・EBIT(財務・法人所得税前利益):3,000億円
・EBITマージン(売上高利益率):10%以上
・ROIC(投資利益率):9%
■(4) 成長戦略と重点施策
既存事業の枠を超えた「事業ポートフォリオ変革の推進」を掲げています。フルサービスキャリア、LCC、貨物の3本柱で国際路線事業の成長を加速するとともに、戦略投資によりマイル・ライフ事業の飛躍的な成長を図ります。
・2035年度にEBIT3,500億円以上を目指す
・CO2排出量10%削減(2019年度対比)の着実な達成
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「全社員の物心両面の幸福の追求」を根幹に据え、「社員一人一人のウェルビーイングの向上」を人財戦略の最上位目標として掲げています。プロフェッショナルとしての活躍と新たな価値を創る変革・挑戦文化の醸成を両輪として推進し、多様な人財が自律的なキャリアを築ける環境や、共創を導くリーダーの育成を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
日本航空(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.2歳 | 14.9年 | 10,112,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 33.6% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 49.6% |
| 男女賃金差異(正社員) | 48.7% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 44.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントの高い社員割合の増加(6.3pt)、有性生殖サンゴの育成数(1000群体)、客室とラウンジにおける新規石油由来使い捨てプラスチックの削減率(100%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 航空安全の確保と信頼失墜リスク
死亡事故や安全問題が発生した場合、顧客の信頼や社会的評価が失墜し、業績に深刻な影響を与える可能性があります。同社は「安全」を存立の大前提とし、グループ安全対策会議を通じた徹底した管理と損害賠償保険の加入により対応しています。
■(2) 首都圏施設の被災による運航停止リスク
羽田空港・成田空港での大規模な自然災害やテロ、または東京地区のシステムセンターや運航管理拠点が機能停止した場合、長期間の運航閉鎖に陥る可能性があります。大阪国際空港への機能分散や危機管理体制の整備等によりリスク軽減を図っています。
■(3) 気候変動への対応と環境規制強化リスク
化石燃料を大量消費する航空業界として、CO2排出削減は極めて重要な経営課題です。将来的な排出量取引制度等の環境規制の強化や費用負担の増加が業績に影響する可能性があり、省燃費機材の導入や持続可能な航空燃料(SAF)の活用を進めています。
■(4) 燃油価格や為替変動によるコスト増加リスク
航空機燃料の価格変動や、大半が米ドル建となる燃料・機材調達における為替変動が業績に大きく影響します。燃油特別付加運賃による一部転嫁や、デリバティブを活用した原油および為替のヘッジ取引により、これらの市況変動リスクの軽減に努めています。



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