※本記事は、株式会社かんぽ生命保険の有価証券報告書(第20期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. かんぽ生命保険ってどんな会社?
郵便局ネットワークを通じ、生命保険サービスを全国展開する企業です。
■(1) 会社概要
2006年に郵政民営化法に基づき設立され、2007年に生命保険業を開始しました。2011年にシステム会社を子会社化し、2015年に上場を果たしています。近年は海外の資産運用会社等との提携など、新たな領域への挑戦を進めています。
従業員数は連結で18,487名、単体で17,706名です。筆頭株主は親会社の日本郵政で、第2位および第3位は資産管理業務を行う信託銀行となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本郵政 | 49.75% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 8.50% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 4.18% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性30名、女性8名の計38名で構成され、女性役員比率は21.1%です。代表取締役社長は谷垣邦夫氏が務めており、社外取締役比率は約63.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 谷垣邦夫 | 取締役兼代表執行役社長 | 1984年郵政省入省。日本郵政専務執行役やゆうちょ銀行執行役副社長等を経て、2023年6月より現職。 |
| 根岸一行 | 取締役 | 1994年郵政省入省。日本郵便経営企画部長や日本郵政常務執行役等を経て、2025年6月より現職。 |
| 大西徹 | 取締役兼代表執行役副社長 | 1990年郵政省入省。同社法務部長や経営企画部長、執行役近畿エリア本部長等を経て、2023年6月より現職。 |
| 廣中恭明 | 代表執行役副社長 | 1987年第一生命保険相互会社入社。同社保険金部部長やかんぽ生命保険常務執行役等を経て、2025年6月より現職。 |
| 奈良知明 | 取締役 | 1984年郵政省入省。同社執行役支払管理部長や専務執行役等を経て、2021年6月より現職。 |
社外取締役は、鵫巣香穂利(元有限責任監査法人トーマツパートナー)、富井聡(元日本政策投資銀行常務執行役員)、神宮由紀(フューチャーアーキテクト代表取締役社長)、大間知麗子(弁護士)、山名昌衛(元コニカミノルタ代表執行役社長)、細谷和男(元SUBARU代表取締役副社長)、宇野晶子(元資生堂お客さまセンター長)です。
2. 事業内容
同社グループは、生命保険業の単一セグメントで事業を展開しています。
個人向けの生命保険業を中心に展開しており、養老保険、終身保険などの貯蓄性商品を中心とした保険商品の引受と、それに伴う資産運用を行っています。全国の郵便局ネットワーク等を通じて、家庭市場を中心に幅広い顧客へサービスを提供しています。
収益源は、保険契約者から受け取る保険料収入と、保険料を原資とした国債や株式等への投資から得られる資産運用収益です。生命保険業はかんぽ生命保険が担い、システムの設計や開発、保守などの業務は子会社のかんぽシステムソリューションズが運営しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、経常利益は一時的な減少局面があったものの、直近では大きく改善し2,719億円に達しています。当期利益も同様に回復傾向にあり、資産運用環境の好転が利益水準の押し上げに寄与していることがわかります。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 経常利益 | 3,561億円 | 1,176億円 | 1,612億円 | 1,703億円 | 2,719億円 |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 1,579億円 | 978億円 | 886億円 | 1,241億円 | 1,702億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の経常収益は減少傾向にありますが、経常利益率ベースでは改善が見られます。新契約獲得に伴う短期的な費用の減少や順ざやの増加により、利益体質の強化が進んでいます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 経常収益 | 61,653億円 | 56,258億円 |
| 経常利益 | 1,703億円 | 2,719億円 |
| 経常利益率(%) | 2.8% | 4.8% |
事業費のうち、一般管理費が3,506億円(構成比85%)、営業活動費が458億円(同11%)を占めています。一般管理費の主な内訳として、物件費が2,426億円、人件費が1,048億円となっています。
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
なお、同社は金融・証券関連事業を主力としているため、営業CFのマイナスは主に保険金等支払金などの増加(事業拡大や保険金支払い等)によるものであり、直ちに業績悪化を意味するものではありません。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -16,278億円 | -18,849億円 |
| 投資CF | 23,865億円 | 17,861億円 |
| 財務CF | 601億円 | -1,242億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.6%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も7.1%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「いつでもそばにいる。どこにいても支える。すべての人生を、守り続けたい。」を経営理念として掲げています。顧客一人ひとりの人生に寄り添い、分かりやすい商品と質の高いサービスを提供することで、選ばれる真に日本一の保険会社を目指すという決意が込められています。
■(2) 企業文化
社員が主体的に行動する企業風土の定着を目指しています。「社長通信」や「フロントラインミーティング」、「かんぽ目安箱」を通じた双方向のコミュニケーションを重視し、社員のエンゲージメント向上を図っています。変化に柔軟に適応し、社員自らが課題解決に取り組む自律的な成長を促す組織文化の醸成を推進しています。
■(3) 経営計画・目標
2040年に目指す姿として「新たな価値を生み出し続け、安心を全国に届けるエッセンシャル・カンパニー」を掲げています。中期経営計画では、ストックベースの「保有契約件数(個人保険)」の維持に加え、お客さま満足度の向上を目指しています。
* 修正利益
* 修正ROE
* 1株当たりEV成長率
■(4) 成長戦略と重点施策
成長・挑戦フェーズと位置づけ、3つの重要戦略に取り組んでいます。AIやデジタルを活用した「かんぽ価値提供モデル」の確立、運用環境の変化を捉えた資産運用と社会課題の解決、そしてインオーガニック成長等を通じた「みらいへの挑戦」です。事業変革を進め、持続的な企業価値の向上を目指しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人的資本経営」を重要課題とし、「社員が主体的に行動する企業風土の定着」「戦略的な人材確保」「多様な人材の活躍と柔軟な働き方の推進」の3つの基本理念を掲げています。AI・デジタルを前提とした業務再構築による生産性向上やリスキリングを進め、多様な人材が個を活かして活躍できる環境整備に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 44.1歳 | 18.3年 | 6,698,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 10.6% |
| 男性育児休業取得率 | 100% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 75.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 73.2% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 80.8% |
また、同社は「人的資本」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメント・スコア(B)、本社における女性管理職比率(17.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) サイバー攻撃に関するリスク
DXやAIの利活用が進み、クラウド等のオープン環境の使用が増加するなか、サイバー攻撃が高頻度化・巧妙化しています。防御・検知の仕組みやセキュリティ専門組織の設置等の対策を行っていますが、未知の脅威によりシステムが停止した場合、業務への影響や対応費用の発生などにより、業績や社会的信用に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 経済環境の変動に伴うリスク
国内の経済物価情勢や家計所得、金利水準の動向が事業に影響を与えます。インフレ傾向による事業費の高騰や金利の急上昇による債券価格の下落、解約の増加などが懸念されます。また、地政学リスク等による社会経済環境の不確実性が顕在化した場合にも、業績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) コンプライアンスに関するリスク
個人情報の保護や保険募集の適正性確保など、厳格な法令遵守が求められています。郵便局ネットワークを通じた膨大な契約のなかで、情報漏えいや不適切な募集活動、詐欺などの不正行為が発生した場合、損害賠償や行政処分、社会的信用の失墜を招き、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。



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