私たちの日常生活に欠かせないパソコンやスマートフォンなどの電子機器を作りだすエレクトロニクス産業は、日々隆盛を極めています。そんな絶好調の産業の根幹を支えているのが、今回取り上げる国内最大の半導体製造装置メーカーである東京エレクトロンです。
パソコンやスマートフォンだけでなく、車や交通システム、そして医療端末などのさまざまなものがネットワークにつながり、IoT(モノのインターネット)が生活のなかに普及しています。そして、このような電子機器やネットワークに必ず必要となるのが、半導体製造装置によってつくられる半導体です。半導体製造装置メーカーが存在することで、半導体市場と電子機器市場が成り立ち、またIoTが実現するといえます。
東京エレクトロンは、東京エレクトロン研究所という専門商社として1963年に東京赤坂に誕生しました。その後1970年代にメーカーへ転身しています。現在では、半導体製造装置メーカー業界において、売上高国内第1位、海外売上比率80%超を誇る優良企業です。
また東京エレクトロンは年収が高いことでも有名で、3000社を超える上場企業の中でも常に上位に位置しています。
では一体どれくらい高いのか、高い理由はなにか、年収の高さ以外のメリットやデメリットはあるのかなどに迫っていきましょう。
東京エレクトロンの年収はどれくらい高いのか?
それでは、はじめに東京エレクトロンの平均年収について見ていきます。
東京エレクトロンの平均年収は、2020年3月期の有価証券報告書によると、1149.3万円です。
キャリコネに寄せられた給与明細から算出した東京エレクトロン年代別年収レンジは、20歳代で760〜810万円、30歳代で1050〜1100万円、40歳代で1310〜1360万円となっています。男女あわせた民間の正規雇用者の平均年収は503.5万円(国税庁・国税庁・平成30年分民間給与実態統計調査結果)ですから、それと比較しておよそ2.29倍の額です。
東京エレクトロンと競合他社の平均年収を比較
社名 | 平均年収 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 従業員数(単体) | 従業員数(連結) | 売上高(連結) | 決算期 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
東京エレクトロン | 1149.3万円 | 44.4歳 | 17.9年 | 1588人 | 13837人 | 11272.86億円 | 2020年3月期 |
アドバンテスト | 994.9万円 | 46.0歳 | 21.0年 | 2021人 | 5048人 | 2758.94億円 | 2020年3月期 |
SCREENホールディングス | 856.1万円 | 42.7歳 | 16.4年 | 381人 | 6074人 | 3232.49億円 | 2020年3月期 |
ダイフク | 836.7万円 | 41.4歳 | 15.3年 | 2928人 | 10863人 | 4436.94億円 | 2020年3月期 |
ニコン | 824.1万円 | 44.6歳 | 18.0年 | 4442人 | 20190人 | 5910.12億円 | 2020年3月期 |
キヤノン | 760.6万円 | 44.2歳 | 19.5年 | 25740人 | 187041人 | 35932.99億円 | 2019年12月期 |
日立ハイテクノロジーズ | 834万円 | 43歳 | 19.2年 | 4134人 | 11482人 | 7311.04億円 | 2019年3月期 |
東京エレクトロンの競合や同業界である半導体製造装置のアドバンテスト、SCREENホールディングス、ダイフク、ニコン、キヤノン、そして参考として上場廃止した日立ハイテクノロジーズを加えた7社で平均年収を比較します。
各社の最新有価証券報告書に記載されている額は、アドバンテストが994.9万円、SCREENホールディングスが856.1万円、ダイフクが836.7万円、ニコンが824.1万円、キヤノンが760.6万円、日立ハイテクノロジーズが834万円です。
この7社の中で最高額は東京エレクトロンの1149.3万円で、最低額がキヤノンの760.6万円。その差はおよそ389万円で、かなりの差があります。
ただ、東京エレクトロンの社員数は1588人でグループ全体の1割程度です。このことから東京エレクトロンはほぼホールディングスと同じと言っていいでしょう。ホールディングスには現業社員がほぼおらず、管理職や管理部門が多いため年収が高くなる傾向があります。このことは、SCREENホールディングス、ダイフク、ニコンにも同じことが言えます
東京エレクトロンには基礎研究部門があり、比較的年収が高い研究職が詰めているのも平均年収をあげている一因です。
半導体製造装置業界の給与明細(キャリコネ)
日本の平均年収を大きく上回る収入が
東京エレクトロン30代・設計(非管理職)の 給与明細
SCREENホールディングス30代・設計(非管理職)の 給与明細
日立ハイテクノロジーズ30代・設計(非管理職)の 給与明細
東京エレクトロンの平均年収の推移
続いて、過去5年間における年収の推移を見てみましょう。
下は平均年収と平均年齢の推移を表したものです。
決算月 | 平均年収 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 従業員数(単体) | 売上高(連結) | 純利益(連結) |
---|---|---|---|---|---|---|
2016年3月期 | 903.1万円 | 43.3歳 | 17年 | 1426人 | 6639.48億円 | 778.91億円 |
2017年3月期 | 949.5万円 | 43.9歳 | 18.1年 | 1531人 | 7997.19億円 | 1152.08億円 |
2018年3月期 | 1272万円 | 44.2歳 | 18.5年 | 1396人 | 11307.28億円 | 2043.71億円 |
2019年3月期 | 1076.7万円 | 44.3歳 | 18.4年 | 1494人 | 12782.4億円 | 2482.28億円 |
2020年3月期 | 1149.3万円 | 44.4歳 | 17.9年 | 1588人 | 11272.86億円 | 1852.06億円 |
出典:東京エレクトロン・有価証券報告書
東京エレクトロンの高い営業利益率は、年収に確実にプラスの影響をあたえる一因であり、年収が高い理由のひとつです。2017年3月の実績における営業利益率は、国内平均約5%のところ、東京エレクトロンはその約4倍となる19.5%で高水準を記録しました。
また東京エレクトロンの時価総額のランクから、市場評価の高さもうかがえます。株式の時価総額におけるランキングでは、東証上場企業の約3500社の中で上位50位以内にランクインしており、投資家からの熱い視線は期待できるキャッシュといえるでしょう。
さらに東京エレクトロンは、高い収益性を支えるビジネスモデルも構築しています。製品の販売で終わることなく、販売後にも顧客との関係を築いて収益をあげる事業展開にも力を注いでいるのです。これまでに6万台を超える製造装置の納入実績をベースにして、販売後も製造装置のサポートを提供するフィールドソリューションビジネスの展開や中古装置の販売も行っています。つまり「作って終わり」ではなく、その後もアフターセールスとしてのメンテナンスやリユースの収益もあるということです。
東京エレクトロンの年代別平均年収と中央値
■東京エレクトロンの年収中央値は30代で899.1万円
続いて年収実態により近い年収中央値を見てみます。20代から50代までの平均年収・平均月収・平均ボーナス・年収中央値を表にまとめました。
東京エレクトロンの年収実態
年代 | 平均月収 | 平均ボーナス | 年収中央値 |
---|---|---|---|
20代 | 52.3万円 | 125.7万円 | 641.2万円 |
30代 | 73.4万円 | 176.3万円 | 899.1万円 |
40代 | 93.1万円 | 223.5万円 | 1139.9万円 |
50代 | 107.6万円 | 258.3万円 | 1317.2万円 |
※キャリコネの口コミ、有価証券報告書、厚労省・経産省・国税庁発表の調査資料を元に、編集部で独自に算出
東京エレクトロンの年収構成はどうなっているのか
■ボーナスが占める割合が高い
職種や役職の違いではなく、ここでは業績に連動してボーナスが支払われることに着目してみましょう。
日本経済新聞が調査した2018年夏のボーナス平均金額ランキングにおいて、東京エレクトロンは第2位で、266万円を支給していることがわかりました。さらに驚きなのは、第1位で270万円を支給したディスコも半導体製造装置業界であることです。この2社の賞与の高さからも、業界全体の春が見えてきます。
東京エレクトロンの給与は査定評価で決まるようですが、業績の影響を大きく受ける賞与の金額が、最終的には年収金額を左右するといって間違いないでしょう。
東京エレクトロン社員の給与明細(キャリコネ)
20代と30代で違いはあるのか?
20代・研究開発(非管理職)の 給与明細
30代・研究開発(非管理職)の 給与明細
賞与額と支給回数の違いが年収の差に?
20代・設計・賞与あり(非管理職)の 給与明細
20代・設計・賞与あり(非管理職)の 給与明細
年収の高さばかりに目を奪われがちですが、就職・転職を検討するにあたり気をつけなければならないことはないのでしょうか。
東京エレクトロンの見落としがちな留意点、課題は?
留意点の1つは、シリコンサイクルにより業績が悪化する時期もありうる点です。シリコンサイクルとは、半導体市場において3~4年周期で好不況を繰り返す現象のことをいい、業績に大きく影響を及ぼします。業績連動型であるがゆえに、悪化時は年収に影響があることを念頭におきましょう。
2つ目は、世界の半導体業界首位の存在です。かつて統合の話も出ていた世界第1位のアプライドマテリアルズは、統合の話が立ち消えになった今、再びライバル企業として台頭しています。日本で首位、世界第3位の東京エレクトロンの海外売上高比率は8割以上を占めていることもあって、競合は世界各社です。見据えるべき戦う相手は世界規模であると考えておく必要がありそうです。
東京エレクトロンには年収以外にメリットはある?
ここまで東京エレクトロンの年収面を見てきました。ただ就職先、転職先として年収の高さだけで決めることはできません。その他にメリットは無いのでしょうか?
シリコンサイクルについて前述で触れましたが、そのサイクルそのものがなくなったという説が浮上しています。東京エレクトロンの好調な業績の背景として、データセンター関連の投資への意欲が旺盛なことが挙げられます。ビッグデータが普及し、人工知能の応用が進む現代において、人間を介さずにマシンによって生み出された情報はどんどん増え続けていくでしょう。データセンター向けの需要は今後もとどまることなく伸びると予想されており、サイクルそのものが消えた可能性があるといわれています。
さらに、異なる得意分野によってシェアが分かれている点も、半導体製造装置メーカーの特徴としてあります。その一例として、東京エレクトロンは、感光剤の塗布と現象を行う装置であるコータ/デベロッパにおいて90%のシェアを誇ります。競合同士が市場のシェアをすぐに奪い合うことはないでしょう。勢いを増す半導体製造装置産業が、日本そして世界のIoTを支えていくことは明らかです。国内最大の規模と待遇で実現したい人には東京エレクトロンは最上の環境といえるでしょう。
出典・参考
厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査」「2019年国民生活基礎調査」
経済産業省「2019年企業活動基本調査速報-2018年度実績-」
国税庁「平成30年分民間給与実態統計調査」
マイナビ「2020年版 業種別 モデル年収平均ランキング」
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