富士通株は「割高」か「割安」か?
富士通株の株価は、20年7月30日に第1四半期決算を発表後、翌31日に上場来高値の1万4795円をつけています。時価総額は2兆9228億円と3兆円に迫り、JR東海や三井物産を抜いて42位に入っています。
PBR(株価純資産倍率)は2.26倍、PER(株価収益率)は16.6倍で、時価総額41位の三菱電機のPBR 1.26倍、PER 15.6倍を上回る高い水準といえます。
その一方で、システムインテグレーター大手の野村総合研究所(時価総額69位で富士通より下位)のPBR 6.26倍、PER 25.7倍と比べると低く、株価上昇の余地はまだ残されていると見ることができるかもしれません。
なお、富士通は21年3月期から報告セグメントを再編し、収益性の低いモバイルやデバイスを脇に置き、収益性の高いテクノロジーソリューション(システムインテグレーションやサーバ、ネットワーク中心)へのシフトを明確にしています。
21年3月期は減収増益、利益率改善の見込み
2021年3月期の業績については、20年3月期決算の時点で、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により合理的な業績見通しの算定が困難であることから未定としていました。
その後、7月30日の21年3月期第1四半期決算とともに発表された通期業績予想は、売上高が前期比6.4%減の3兆6100億円、営業利益が同0.2%増の2120億円、営業利益率は同0.4pt増の5.9%、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比並みの1600億円の減収増益となっています。
なお、中期経営目標には、23年3月期にテクノロジーソリューション事業で売上収益3兆5000億円、営業利益率10%を掲げています。20年3月期の売上収益は3兆2129億円、営業利益率は5.8%ですので、21年3月期以降は利益率の向上が重点課題となります。
■国内のSI事業が業績をけん引
2020年3月期(IFRS)の決算は、売上収益は前期比2.4%減の3兆8578億円で6期連続減収。一方、営業利益は同62.4%増の2115億円と大幅に増え、2008年3月期以来の2000億円超えとなっています。
営業利益率は前期比2.2pt増の5.5%へと改善。親会社株主に帰属する当期利益も前期比53.1%増の1600億円と大きく増えています。
セグメント別の売上収益(その他/消去又は全社を除く)は、主に法人顧客向けにITを活用したビジネスソリューションを提供するテクノロジーソリューションが3兆1632億円で、全体の78.5%を占めています。
このほか、パソコンや携帯電話などを提供するユビキタスソリューションが5478億円で13.6%、LSI事業と電子部品事業を担うデバイスソリューションが3170億円で7.9%となっています。
売上収益の成長率は、テクノロジーが前期比1.3%増、ユビキタスが同7.4%増。デバイスは前期比34.9%減収でしたが、半導体三重工場が連結対象から外れたことが要因で、この影響を除けば微増収でした。
セグメント営業利益は、テクノロジーが2485億円と、やはりこの事業頼みの利益構造。ユビキタスが311億円の黒字でデバイスが34億円の赤字でしたが、前期までは逆にユビキタスが赤字でデバイスが黒字でした。
なお、テクノロジーソリューションは、システムインテグレーションを中心とした「サービス」と、サーバやネットワーク製品などの「システムプラットフォーム」に分けられます。セグメント利益2485億円のうち、サービスは1971億円と大半を占め、前期比13.3%増と伸長。海外事業が低調な中、国内のSI事業が富士通をけん引しているといえます。
【20年3月期】富士通、12期ぶりの営業利益2000億円台 「ニューノーマル」への対応が課題に
https://corp-research.jp/articles/5732総合電機メーカーからITベンダーへのシフトを果たした富士通。いまや売上収益の8割近くを「テクノロジーソリューション」が占め、国内トップのシステムインテグレーターです。20年3月期は減収も増益で着地。12年ぶりの営業利益2000億円台で株価も上昇中です。財務諸表などを基に会社の現状と課題を整理します。
■21年3月期第1四半期は「増益率558%」
21年3月期第1四半期は、売上収益が前年同期比4.3%減の8027億円、営業利益は同558.0%増の222億円、親会社所有者に帰属する四半期利益は同156.2%増の181億円。営業利益率は2.8%で、前年同期比2.4ポイント改善しています。
新型コロナウイルスの影響は、21年3月期はテクノロジーソリューション中心に出ています。製造業や流通業、ヘルスケア関連のクライアント企業が業績を悪化させた煽りを受けたようです。
売上収益は前年同期比で358億円の減。しかしシステムプラットフォームの増収が、ユビキタスソリューションの前年特需の反動減(143億円)をカバーしています。
営業利益もコロナの影響で121億円減っていますが、これを上回る業績好調でカバー。前年計上したデバイス事業の再編費用の反動により、増益となっています。
「Work Life Shift」は会社をどう変えるか
コロナ禍を契機に、富士通は国内グループの従業員およそ8万人を原則テレワークとし、オフィス面積を3年後に現在の半分に減らす方針です。
7月6日に発表された「ニューノーマルにおける新たな働き方への変革」には、「最適な働き方の実現」「オフィスのあり方の見直し」「社内カルチャーの変革」を柱としたWork Life Shiftの考え方が示されています。
具体的な施策としては「コアタイムの廃止」「通勤定期券の廃止」「(テレワーク)環境整備サポート」といった日々の業務に関するものから、「単身赴任の解消」、管理職1万5000人を対象とした「Job型人事制度の導入」といった人事制度に関わるものまで広くあげられています。
ニューノーマルにおける新たな働き方「Work Life Shift」を推進 : 富士通
https://pr.fujitsu.com/jp/news/2020/07/6.html当社は、新型コロナウイルスの感染拡大によって生じたニューノーマルにおいて、DX企業への変革をさらに加速し、従業員がこれまで以上に高い生産性を発揮し、イノベーションを創出し続けられる新しい働き方として「Work Life Shift」を推進します。
また、2020年度第1四半期決算概要(資料)には「新しいデマンドと働き方」として、「デジタル化」「リモート化」「無人化」「非接触化」といったニューノーマル時代のトレンドとしてビジネス創出につなげる項目があげられています。
これらの取り組みは、富士通の業務生産性を向上させ、業績を改善させる効果が期待できるでしょう。ただし、制度や環境を変えても実運用がうまくいくかどうかは不透明で、特に長年培ってきた企業文化をどう変えていくかが課題となります。
とはいえ、「ニューノーマルにおける新たな働き方への変革」は、富士通のクライアントでも求められることでもあり、コロナ時代の企業のDX(デジタル・トランスメーション)は一大ビジネスチャンスになる可能性があります。
社員口コミに見る「社内事情」3つの懸念
企業口コミサイト「キャリコネ」には、富士通の現役社員および元社員から多くの口コミが投稿されています。興味深いのは「国内市場シフト」「技術開発軽視」「人手不足」という3つの懸念に触れている投稿が目につくことです。
お読み頂きありがとうございます。続きで読めるコンテンツは
5877文字画像6枚