※本記事は、株式会社資生堂 の有価証券報告書(第125期、自 2024年1月1日 至 2024年12月31日、2025年3月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 資生堂ってどんな会社?
化粧品事業を中心に、世界約120の国と地域で事業展開する日本発のグローバルビューティーカンパニーです。
■(1) 会社概要
1872年に東京銀座で創業し、1897年に化粧品事業へ進出しました。1927年に株式会社組織へ改組し、1949年に東京証券取引所へ上場しています。1957年の台湾を皮切りに海外展開を本格化させ、欧米や中国などグローバルに事業を拡大しました。近年では2019年に米国Drunk Elephantを買収するなど、ブランドポートフォリオの強化を進めています。
連結従業員数は27,908名、単体では4,023名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位も同様に日本カストディ銀行です。上位株主には金融機関や証券会社が名を連ねており、国内外の機関投資家が高い比率で株式を保有する構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 19.07% |
| 株式会社日本カストディ銀行(信託口) | 6.77% |
| JPモルガン証券株式会社 | 2.44% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性6名の計14名で構成され、女性役員比率は42.9%です。代表執行役社長 CEOは藤原 憲太郎氏です。社外取締役比率は63.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 藤原 憲太郎 | 取締役 代表執行役 |
1991年同社入社。中国地域CEO、資生堂ジャパン代表取締役社長CEO等を経て、2025年1月より現職。 |
| 廣藤 綾子 | 取締役 代表執行役 |
2003年メリルリンチ日本証券入社。同社IR部長、チーフファイナンシャルオフィサー等を経て、2025年3月より現職。 |
| 安野 裕美 | 取締役 | 1995年同社入社。グローバル広報部長、チーフパブリックリレーションズオフィサー、常勤監査役を経て、2024年3月より現職。 |
| Yoshida Takeshi | 取締役 | 1985年オークラ経営経理学院入社。同社資生堂アメリカズCorp.上級副社長、監査部長、常勤監査役を経て、2024年3月より現職。 |
社外取締役は、大石 佳能子(メディヴァ代表取締役)、岩原 紳作(東京大学名誉教授)、得能 摩利子(ヤマトホールディングス社外取締役)、畑中 好彦(アステラス製薬代表取締役会長)、後藤 靖子(九州旅客鉄道常務取締役)、野々宮 律子(フーリハン・ローキー代表取締役CEO)、中嶋 康博(あらた監査法人代表社員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本事業」「中国事業」「アジアパシフィック事業」「米州事業」「欧州事業」「トラベルリテール事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 日本事業
国内における化粧品、化粧用具の販売およびヘルスケア事業(一般用医薬品の販売)を行っています。プレステージ、フレグランス、プレミアム等のブランドカテゴリーを展開し、一般消費者やドラッグストア、デパートなどが主な顧客です。
収益は、卸売業者や小売店、一般消費者からの製品販売代金等が主な源泉です。運営は主に資生堂ジャパン、資生堂美容室、資生堂フィティット、資生堂インターナショナルなどが行っています。
■(2) 中国事業
中国における化粧品、化粧用具の製造・販売を行っています。プレステージ、フレグランス、コスメティクス等のブランドカテゴリーを展開し、現地消費者への販売を行っています。
収益は、製品の販売代金が主な源泉です。運営は主に同社、資生堂(中国)投資有限公司、資生堂麗源化粧品有限公司、資生堂香港有限公司などが行っています。
■(3) アジアパシフィック事業
日本、中国を除くアジア・オセアニア地域における化粧品、化粧用具の製造・販売を行っています。プレステージ、フレグランス、コスメティクス等のブランドカテゴリーを展開しています。
収益は、製品の販売代金が主な源泉です。運営は主に同社、資生堂アジアパシフィックPte. Ltd.、台湾資生堂股份有限公司などが行っています。
■(4) 米州事業
アメリカ地域における化粧品、化粧用具の製造・販売を行っています。プレステージ、フレグランス等のブランドカテゴリーを展開しています。
収益は、製品の販売代金が主な源泉です。運営は主に同社、資生堂アメリカズCorp.、資生堂アメリカInc.などが行っています。
■(5) 欧州事業
ヨーロッパ、中東およびアフリカ地域における化粧品、化粧用具の製造・販売を行っています。プレステージ、フレグランス等のブランドカテゴリーを展開しています。
収益は、製品の販売代金が主な源泉です。運営は主に同社、資生堂ヨーロッパS.A.、資生堂インターナショナルフランスS.A.S.などが行っています。
■(6) トラベルリテール事業
全世界の免税店エリアにおける化粧品、化粧用具の販売を行っています。プレステージ、フレグランス、コスメティクス等のブランドカテゴリーを展開し、旅行者などが主な顧客です。
収益は、免税店等への製品販売代金が主な源泉です。運営は主に同社、資生堂トラベルリテールアジアパシフィックPte. Ltd.などが行っています。
■(7) その他
上記セグメントに含まれない事業として、化粧品・化粧用具の販売、美容食品の販売、生産事業、飲食業などを展開しています。イプサブランドの化粧品や、資生堂パーラーによる飲食・食品販売などが含まれます。
収益は、製品販売代金や飲食代金などが主な源泉です。運営は主に同社、ザ・ギンザ、イプサ、資生堂パーラー、資生堂化妆品制造有限公司などが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2021年12月期から2024年12月期の業績を見ると、売上高は9,000億円台後半から1兆円規模で推移しています。利益面では、2021年12月期には高い利益率を記録しましたが、その後は低下傾向にあり、直近の2024年12月期には税引前利益および当期利益がマイナスに転じています。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 |
|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 10,100億円 | 10,674億円 | 9,730億円 | 9,906億円 |
| 税引前利益 | 991億円 | 504億円 | 310億円 | -13億円 |
| 利益率(%) | 9.8% | 4.7% | 3.2% | -0.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 469億円 | 342億円 | 217億円 | -108億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、売上高は微増し、売上総利益率も改善しています。一方で、営業利益は減少しており、利益率も低下しています。これは販売費及び一般管理費等の増加や構造改革費用の計上などが影響していると考えられます。
| 項目 | 2023年12月期 | 2024年12月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 9,730億円 | 9,906億円 |
| 売上総利益 | 7,134億円 | 7,532億円 |
| 売上総利益率(%) | 73.3% | 76.0% |
| 営業利益 | 281億円 | 76億円 |
| 営業利益率(%) | 2.9% | 0.8% |
■(3) セグメント収益
日本事業と欧州事業が増収増益となり業績を牽引しましたが、中国事業は売上横ばいながら増益を確保しました。一方、トラベルリテール事業は大幅な減収減益となり、米州事業も減益となりました。全社的には増収となったものの、一部地域の苦戦や構造改革等の影響により、全体の利益率は低下しました。
| 区分 | 売上(2023年12月期) | 売上(2024年12月期) | 利益(2023年12月期) | 利益(2024年12月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本事業 | 2,599億円 | 2,838億円 | 13億円 | 281億円 | 9.9% |
| 中国事業 | 2,479億円 | 2,500億円 | 70億円 | 123億円 | 4.9% |
| アジアパシフィック事業 | 673億円 | 717億円 | 51億円 | 60億円 | 8.4% |
| 米州事業 | 1,103億円 | 1,185億円 | 112億円 | 2億円 | 0.2% |
| 欧州事業 | 1,169億円 | 1,327億円 | 33億円 | 37億円 | 2.8% |
| トラベルリテール事業 | 1,325億円 | 1,078億円 | 171億円 | 50億円 | 4.6% |
| その他 | 382億円 | 262億円 | -228億円 | -249億円 | -95.2% |
| 調整額 | -億円 | -億円 | 176億円 | 60億円 | -% |
| 連結(合計) | 9,730億円 | 9,906億円 | 398億円 | 364億円 | 3.7% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFはプラスを維持し、財務CFで資金調達を行いつつ、投資CFで積極的な投資を実施している「積極型」のキャッシュ・フロー状態です。
| 項目 | 2023年12月期 | 2024年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 890億円 | 484億円 |
| 投資CF | -355億円 | -837億円 |
| 財務CF | -756億円 | 234億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-1.7%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は47.5%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」を企業使命(OUR MISSION)として掲げています。美には人の心を豊かにし、生きる喜びやしあわせをもたらす力があると信じ、創業以来、美の可能性を広げ、新たな価値の発見と創造を行ってきました。これからも美しく健やかな社会と地球が持続していくことに貢献することを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、150年を超える歴史の中で受け継いできた「OUR DNA」と、全社員が仕事を進めるうえで持つべき心構えである「OUR PRINCIPLES (TRUST 8)」を企業理念の構成要素としています。これらを国・地域・組織・ブランドを問わず常によりどころとし、「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」を目指す文化を醸成しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2023年から2025年までの3カ年を中心に取り組む中期経営戦略「SHIFT 2025 and Beyond」を策定しています。また、2024年には急激な外部環境の変化を受け、2025年・2026年を構造改革の加速フェーズとする「アクションプラン 2025-2026」を策定し、収益性改善と持続的成長の基盤再構築を目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は「アクションプラン 2025-2026」において、変化の激しい市場でも安定的な利益拡大を実現するレジリエントな事業構造を目指しています。具体的には、「ブランド力の基盤強化」、「高収益構造の確立」、および「事業マネジメントの高度化」を最優先課題として掲げ、注力ブランドへの集中投資やコスト構造改革などを推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「PEOPLE FIRST」の考えのもと、人材を価値創造の源泉と捉えています。変革に対する強固な意志と情熱にあふれる人材の確保・強化を進めるとともに、多様な人の知と能力を集結させ、イノベーションを連続的に起こす組織文化「Beauty Innovation Atelier」の構築を目指しています。新たなリーダーシップモデル「Futurists, Leading Change」の導入や、自律的なキャリア開発支援を行っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2024年12月期 | 38.9歳 | 10.8年 | 7,205,560円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 37.9% |
| 男性育児休業取得率 | 122.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 76.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 87.1% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 68.5% |
※男性労働者の育児休業取得率は、育児休業等と育児目的休暇を取得した男性社員数の合計を用いて算出しています。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、自己都合離職率(5.8%)、外国籍社員構成比率(1.9%)、障がい者雇用率(2.99%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 生活者の価値観変化
マクロ経済動向による消費意欲の変化や、「美」に関する価値観、購買行動の多様化への対応が遅れると、競合に機会を奪われる可能性があります。また、環境や多様性に配慮した商品への誤解が信頼喪失につながるリスクがあります。同社はブランドポートフォリオの強化や市場情報の収集を通じて対応しています。
■(2) 最先端のイノベーション
開発技術の陳腐化や薬事規制による使用制限、またR&DやM&A等のシナジー効果が想定通り実現できず、生活者ニーズに合致した価値を提供できない場合、競争劣後となる可能性があります。同社はR&Dへの投資継続やコアテクノロジー領域の特定、外部機関との連携強化等により、イノベーションを推進しています。
■(3) 地政学的問題
進出国における対日感情の悪化による買い控えや政治的不安、世界的な物価上昇、紛争発生などが事業環境を悪化させ、生産・供給・販売に悪影響を及ぼす可能性があります。同社は注力ブランドへの集中投資、グローバルでの事業改革加速、サプライネットワークの強化等により、リスクの最小化を図っています。



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