※本記事は、三菱電機株式会社 の有価証券報告書(第155期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 三菱電機ってどんな会社?
インフラから家電、半導体まで幅広い事業をグローバルに展開する日本を代表する総合電機メーカーです。
■(1) 会社概要
1921年に三菱造船の電機製作所を継承して創立し、1949年に東京証券取引所に上場しました。近年は事業再編を加速させており、2022年のビジネスエリア設定や2024年の自動車機器事業の分社化を経て、2025年にはデジタルイノベーション事業本部を新設するなど、環境変化に対応する体制を構築しています。
従業員数は連結で150,386名、単体で29,949名です。大株主については、筆頭株主である日本マスタートラスト信託銀行をはじめ、第2位の日本カストディ銀行、第3位のSTATE STREET BANK AND TRUST COMPANYなど、上位を国内外の金融機関や信託銀行等の機関投資家が占めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 16.15% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.85% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 | 4.52% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性19名、女性2名の計21名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表執行役執行役社長CEOは漆間啓氏が務めています。取締役10名のうち、社外取締役は6名です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 漆間啓 | 取締役代表執行役執行役社長CEO | 1982年同社入社。常務執行役、専務執行役等を経て、2021年7月より代表執行役執行役社長CEO。2023年6月より現職。 |
| 高澤範行 | 取締役代表執行役執行役副社長CSO(経営企画、関係会社担当) | 1986年同社入社。常務執行役インフラビジネスエリアオーナー、専務執行役等を経て、2026年4月より現職。 |
| 加賀邦彦 | 代表執行役執行役副社長CTO(技術戦略担当)インダストリー・モビリティビジネスエリアオーナー、輸出管理担当 | 1990年同社入社。常務執行役CTO、専務執行役等を経て、2026年4月より現職。 |
| 藪重洋 | 取締役 | 1984年同社入社。米国の空調合弁会社CEO、同社常務執行役生産システム担当等を経て、2024年6月より現職。 |
| 藤本健一郎 | 取締役 | 1988年同社入社。財務統括部長、常務執行役CFO(財務戦略、経理、ファイナンス担当)等を経て、2025年6月より現職。 |
社外取締役は、小坂達朗(元中外製薬社長)、柳弘之(元ヤマハ発動機社長)、江川雅子(元一橋大学教授)、松山遙(元東京地方裁判所判事)、皆川邦仁(元リコー常務執行役員)、ピーター D.ピーダーセン(元イースクエア社長)、中林美恵子(元早稲田大学教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「インフラ」「インダストリー・モビリティ」「ライフ」「デジタルイノベーション」「セミコンダクター・デバイス」および「その他」の事業を展開しています。
■インフラ
社会インフラや公共・交通分野向けに、タービン発電機や鉄道車両用電機品、防衛・宇宙関連システムなどの製造・販売を行っています。世界の重要インフラの安定稼働とカーボンニュートラル実現に貢献する製品やソリューションを提供しています。
収益は、国内外の政府や自治体、インフラ事業者等への製品販売、および保守・エンジニアリングサービスによる対価として得ています。運営は同社のほか、三菱プレシジョンや三菱電機ディフェンス&スペーステクノロジーズなどの子会社が担っています。
■インダストリー・モビリティ
製造現場向けのFA(ファクトリーオートメーション)制御機器や加工機などの産業用メカトロニクス製品、および電動化関連機器などの自動車機器の開発・製造を行っています。AIやデジタル技術を融合させ、生産性向上と快適な移動の実現を支援しています。
収益は、製造業や自動車メーカーに対するコンポーネント販売やソリューション提供により得ています。運営は同社を中心に、三菱電機モビリティなどの子会社や、関連会社のTMEICなどが連携して展開しています。
■ライフ
人々の生活空間を支えるルームエアコンやパッケージエアコンなどの空調冷熱機器、冷蔵庫などの家電製品、およびエレベーターなどのビルシステム製品の製造・販売・保守を行っています。
収益は、一般消費者や企業、ビルオーナーに対する製品販売や、継続的な保守・運用管理サービスを通じて得ています。運営は同社のほか、三菱電機ビルソリューションズや多数の海外製造・販売子会社が各地域で担っています。
■デジタルイノベーション
ITプラットフォームの開発やシステム構築、データセンターサービス、製造DXソリューションなどの情報システム・サービスを提供しています。グループ内のDX推進を支えるとともに、外部顧客向けにもセキュリティソリューションを展開しています。
収益は、企業顧客へのシステム構築費、ネットワークインテグレーションの対価、および情報システムのアウトソーシングサービスから得ています。運営は主に同社および子会社の三菱電機デジタルイノベーションが担っています。
■セミコンダクター・デバイス
社会のGX・DXの実現に不可欠なパワー半導体や高周波・光デバイスなどの電子デバイス製品の開発・製造・販売を行っています。省エネ化や通信の高速化に貢献するキーデバイスを提供しています。
収益は、家電メーカーや自動車メーカー、産業機器メーカーなどに対するデバイスコンポーネントの販売により得ています。運営は同社のほか、メルコパワーデバイスや海外のヴィンコテック・ホールディングス傘下の子会社などが担っています。
■その他
上記セグメントに含まれない事業として、資材調達、不動産の売買・賃貸・管理、広告宣伝、物流、金融・リースなどの各種サービス事業を展開しています。グループ全体の事業運営を支援する周辺業務が中心です。
収益は、グループ内外の企業からの業務受託手数料やサービス提供による対価から得ています。運営は三菱電機トレーディング、三菱電機ライフサービスなどの子会社、および関連会社の三菱電機フィナンシャルソリューションズなどが担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上高は一貫して増加傾向にあり、順調な事業成長が伺えます。利益面でも増益基調が続いており、特に直近の数期間では税引前利益率が継続的に改善しています。収益性の向上が着実に進んでいることがわかります。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 4兆4768億円 | 5兆37億円 | 5兆2579億円 | 5兆5217億円 | 5兆8947億円 |
| 税引前利益 | 2797億円 | 2922億円 | 3659億円 | 4373億円 | 5261億円 |
| 利益率(%) | 6.2% | 5.8% | 7.0% | 7.9% | 8.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 2035億円 | 2139億円 | 2849億円 | 3241億円 | 4078億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の業績を比較すると、売上高の増加に加えて売上総利益率および営業利益率がともに改善しています。価格転嫁の進展や高付加価値事業へのシフトなどにより、コスト増加を吸収して高い収益性を確保していることが分かります。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 5兆5217億円 | 5兆8947億円 |
| 売上総利益 | 5289億円 | 6430億円 |
| 売上総利益率(%) | 9.6% | 10.9% |
| 営業利益 | 3919億円 | 4331億円 |
| 営業利益率(%) | 7.1% | 7.3% |
単体ベースの販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が1457億円(構成比30%)、給与手当・賞与が571億円(同12%)を占めています。
■(3) セグメント収益
すべてのセグメントで増益を記録しており、特にインフラ事業とインダストリー・モビリティ事業における利益成長が顕著です。売上高の大半を占めるライフ事業も安定して高い収益を稼ぎ出し、全社の成長を力強く牽引しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| インフラ | 1兆2249億円 | 1兆4634億円 | 895億円 | 1547億円 | 10.6% |
| インダストリー・モビリティ | 1兆6448億円 | 1兆6739億円 | 826億円 | 1311億円 | 7.8% |
| ライフ | 2兆1852億円 | 2兆3183億円 | 1573億円 | 1706億円 | 7.4% |
| デジタルイノベーション | 1469億円 | 1580億円 | 109億円 | 120億円 | 7.6% |
| セミコンダクター・デバイス | 2864億円 | 2871億円 | 406億円 | 475億円 | 16.6% |
| その他 | 8521億円 | 8236億円 | 516億円 | 532億円 | 6.5% |
| 調整額 | -8186億円 | -8295億円 | -406億円 | -1359億円 | - |
| 連結(合計) | 5兆5217億円 | 5兆8947億円 | 3919億円 | 4331億円 | 7.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、本業で稼いだ資金で投資と借入金の返済等を賄う「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。安定した資金創出力により、財務の健全性を維持しながら成長投資を継続しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 4559億円 | 5760億円 |
| 投資CF | -1918億円 | -3444億円 |
| 財務CF | -2653億円 | -3048億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.7%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は50.3%となり、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「Purpose(存在意義)」「Guiding Principle(大切にする考え)」「Core Values(行動指針)」から構成される理念「Our Philosophy(私たちの理念)」を掲げています。サステナビリティを経営の根幹に据え、社会や顧客などのステークホルダーからの信頼を重視しながら、事業を通じて社会課題を解決する新たな価値を創出し続けることを使命としています。
■(2) 企業文化
同社は、行動指針「Core Values」の一つである「WITH INTEGRITY 誠実」を重視し、高い倫理観とコンプライアンス意識に基づく健全な企業文化を醸成しています。また、従業員一人ひとりが失敗を恐れずに新しいことに果敢に挑戦するマインドセットの変革を進め、現場が主体的に考え行動する「自走する組織」づくりに注力しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は収益率と資本効率の向上を最重視し、2030年度に向けた中期経営戦略として安定的な売上成長を目指す経営計画を推進しています。社会課題の解決と事業成長の両立を図る方針です。
・調整後営業利益率:12%超
・ROE:12%
・売上高成長率(2025〜2030年度):3〜5%
・2030年度工場・オフィス温室効果ガス排出量:実質ゼロ
■(4) 成長戦略と重点施策
顧客とつながり続ける「循環型 デジタル・エンジニアリング」の拡大による事業モデルの変革を成長戦略の中核に据えています。現場のノウハウとAI・デジタル技術を融合させてコンポーネント製品を強化するとともに、デジタル基盤「Serendie」を活用した新たなソリューションの提供に注力します。さらに、ROIC(投下資本利益率)を活用した事業運営の徹底や、DX活用による業務変革を通じて収益力の向上を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、「人と共に成長し、人財力で未来を拓く」を基本理念とし、従業員一人ひとりのキャリアオーナーシップに基づく自律的な成長を強力に支援しています。マネジメント層へのグローバル基準のジョブグレード制度導入など、ジョブ型人財マネジメントへの転換を加速させています。また、事業モデル変革を牽引するため社内育成機関を設立し、グループ全体でDX人材を計画的に確保・育成する方針です。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。職務や役割の価値に基づくハイブリッド型のグレーディング制度を導入しており、成果や貢献度を適正に評価する仕組みを取り入れています。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.5歳 | 15.3年 | 9,134,603円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 4.2% |
| 男性育児休業取得率 | 101.5% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 64.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 66.0% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 59.3% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員エンゲージメントスコア(62.0%)、仕事と生活のバランスが取れていると回答した従業員の割合(72.0%)、障がい者雇用率(2.52%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
(1) 経済安全保障と各国規制の強化
同社は広範な事業をグローバルに展開し、売上の過半を海外が占めています。関税強化や輸出規制、地政学的な緊張の高まりにより、各国の経済安全保障政策が急激に変化した場合、製品需要の減少や事業活動の制限といった影響を受ける可能性があります。
(2) グローバルサプライチェーンの途絶
地政学リスクに伴う物流網の寸断や原材料価格の高騰、各国の経済安全保障規制の拡大などにより、部材の安定的な調達が困難になるリスクがあります。同社は調達ルートの複線化や代替品の探索を進め、サプライチェーンの強靭化を図っています。
(3) サステナビリティ関連の社会要請
カーボンニュートラルや人権保護など、企業に対するサステナビリティの要請が強まっています。環境配慮設計やサプライチェーンの人権デューデリジェンスなどへの適切な対応が遅れた場合、社会的評価の低下や事業活動に影響を及ぼす可能性があります。
(4) サイバー攻撃の高度化と情報漏洩
AI技術の進展に伴いサイバー攻撃が劇的に高度化しており、IT環境だけでなく製造現場のOT環境への侵入による生産ラインの停止や、重要インフラ制御システムの混乱を引き起こすリスクがあります。機密情報の漏洩は企業の信頼失墜に直結します。



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