※本記事は、株式会社村田製作所 の有価証券報告書(第89期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 村田製作所ってどんな会社?
世界的な電子部品メーカーです。「Innovator in Electronics」を掲げ、独自の素材技術と生産技術を強みに、スマートフォンや自動車向けの部品で高いシェアを持ちます。
■(1) 会社概要
1944年に創業者が京都市で個人経営の村田製作所を創業し、セラミックコンデンサの製造を開始しました。1950年に株式会社へ改組し、1963年に大阪証券取引所市場第二部、1969年に東京証券取引所市場第二部に上場しました(翌年各市場第一部指定)。その後、米国、欧州、アジア各地に販売・生産拠点を設立しグローバル展開を加速させるとともに、2017年にはソニーグループの電池事業を譲受するなど事業領域を拡大しています。
連結従業員数は72,572名、単体では10,865名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位も同様に信託銀行です。第3位は外国法人等となっています。国内外の機関投資家が高い比率で株式を保有しており、特定の親会社や支配的な株主は存在しません。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 16.90% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.10% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 | 2.90% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役社長は中島規巨氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 中島 規巨 | 代表取締役社長 | 1985年入社。モジュール事業本部や通信・センサ事業本部の本部長などを歴任。2020年6月より現職。 |
| 岩坪 浩 | 代表取締役副社長 | 1985年入社。営業本部本部長、技術・事業開発本部本部長などを経て、2024年6月より現職。 |
| 南出 雅範 | 代表取締役 専務執行役員コーポレート本部 本部長兼 同本部 経営管理統括部統括部長 | 1987年小松村田製作所入社。経理・財務・企画グループ統括部長などを経て、2024年7月より現職。 |
| 泉谷 寛 | 取締役 上席執行役員通信・センサ事業本部 本部長兼 同本部 高周波デバイス事業部 事業部長 | 1997年入社。シンガポール現地法人マネージングディレクターなどを経て、2024年7月より現職。 |
| 村田 崇基 | 取締役 上席執行役員技術・事業開発本部 本部長 | 2004年入社。米国pSemi社CEOなどを経て、2024年7月より現職。 |
| 小澤 芳郎 | 取締役(監査等委員・常勤) | 1985年入社。経理部部長、企画管理本部人事グループ統括部長などを経て、2018年6月より現職。 |
社外取締役は、安田結子(元ラッセル・レイノルズ日本支社代表・報酬諮問委員長)、西島剛志(元横河電機社長・指名諮問委員長)、伊奈博之(元デンソー経営役員)、山本高稔(元モルガン・スタンレー証券副会長)、宗像直子(元特許庁長官)、榎本成一(公認会計士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「コンポーネント」「デバイス・モジュール」および「その他」事業を展開しています。
■(1) コンポーネント
積層セラミックコンデンサ、インダクタ、EMI除去フィルタなどの受動部品を提供しています。スマートフォンやパソコンなどの民生用電子機器から、自動車、産業機器まで幅広い顧客に製品を供給しています。
収益は、国内外の得意先への製品販売による対価が主な源泉です。運営は、同社が半製品を生産・供給し、株式会社福井村田製作所や株式会社出雲村田製作所、Wuxi Murata Electronics Co., Ltd.などの国内外の生産会社が完成品まで加工を行う体制となっています。
■(2) デバイス・モジュール
高周波モジュール、表面波フィルタ、コネクティビティモジュール、樹脂多層基板、リチウムイオン二次電池、センサなどを提供しています。通信機器メーカーや自動車メーカーなどが主な顧客です。
収益は、各製品の販売により得ています。運営は、同社のほか、株式会社小松村田製作所、株式会社金沢村田製作所、株式会社東北村田製作所、Shenzhen Murata Technology Co., Ltd.などの国内外の関係会社が行っています。
■(3) その他
ヘルスケア機器やソリューションビジネス、機械設計・製造、ソフトウェア販売などを展開しています。また、従業員の福利厚生サービスや不動産賃貸なども含まれます。
収益は、機器販売やサービス提供の対価、賃貸料などから得ています。運営は、同社およびムラタソフトウェア株式会社、村田土地建物株式会社などの関係会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
| 項目 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 16,868億円 | 16,402億円 | 17,434億円 |
| 税引前利益 / 経常利益 / 営業利益 | 3,027億円 | 2,394億円 | 3,044億円 |
| 利益率(%) | 17.9% | 14.6% | 17.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 2,439億円 | 1,808億円 | 2,338億円 |
売上収益は、2024年3月期に一時減少しましたが、直近の2025年3月期には過去3年間で最高となる1兆7434億円まで回復・成長しました。利益面でも同様の傾向が見られ、2024年3月期に低下した利益率が2025年3月期には17.5%まで改善し、当期利益も2000億円台を回復しています。
■(2) 損益計算書
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 16,402億円 | 17,434億円 |
| 売上総利益 | 6,368億円 | 7,177億円 |
| 売上総利益率(%) | 38.8% | 41.2% |
| 営業利益 | 2,154億円 | 2,797億円 |
| 営業利益率(%) | 13.1% | 16.0% |
売上収益が増加するとともに、売上総利益率が改善傾向にあります。これに伴い、営業利益も大幅に増加し、営業利益率は16.0%まで上昇しました。コストコントロールと売上の拡大が利益率の向上に寄与していることが伺えます。
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が1468億円(構成比53%)、手数料が539億円(同19%)を占めています。また、研究開発費は1493億円を計上しています。
■(3) セグメント収益
コンポーネント事業は、コンピュータやモビリティ向けの需要増により増収増益となり、高い利益率を維持しています。デバイス・モジュール事業は売上が横ばいでしたが、前期の営業赤字から黒字転換を果たしました。その他事業は減収となり、営業損失が継続しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| コンポーネント | 9,425億円 | 10,440億円 | 2,342億円 | 2,752億円 | 26.4% |
| デバイス・モジュール | 6,953億円 | 6,972億円 | -130億円 | 100億円 | 1.4% |
| その他 | 675億円 | 673億円 | -57億円 | -54億円 | -8.1% |
| 調整額 | -651億円 | -651億円 | 0億円 | 0億円 | - |
| 連結(合計) | 16,402億円 | 17,434億円 | 2,154億円 | 2,797億円 | 16.0% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、本業で稼いだ資金を元に、借入金の返済や株主還元を行いつつ、投資も自己資金の範囲内でコントロールしている「健全型」のキャッシュ・フロー状態にあります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 4,896億円 | 4,519億円 |
| 投資CF | -2,016億円 | -2,081億円 |
| 財務CF | -1,653億円 | -2,427億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.1%で市場平均とほぼ同じ水準である一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は52.5%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「独自の製品を供給して文化の発展に貢献する」という社是を経営の中核に据えています。また、「Innovator in Electronics」をスローガンとし、エレクトロニクス産業のイノベーションを先導する存在を目指しています。顧客満足(CS)と従業員満足(ES)を大切な価値観として掲げ、社会価値と経済価値の好循環を生み出すことで豊かな社会の実現に貢献することをありたい姿としています。
■(2) 企業文化
「CS(Customer Satisfaction)」と「ES(Employee Satisfaction)」を原動力とし、「先を読む力」「ニーズをカタチにする力」「価値を届ける力」という3つのコア・コンピタンスを結びつけた総合力の発揮を重視しています。また、独自の技術や製品を生み出すため、プロセスの源流から「科学的管理」を実践し、品質の追求や生産性向上に取り組む姿勢が根付いています。
■(3) 経営計画・目標
長期構想「Vision2030」および「中期方針2027」を策定しています。2027年度の全社経営目標として以下の数値を掲げています。
* 売上収益:2兆円
* 営業利益率:20%以上
* ROIC(税引後):12%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「基盤事業の深化とビジネスモデルの進化」を掲げ、3層ポートフォリオ経営を推進しています。「エッジデバイス」「モビリティ」「ITインフラ」を基盤領域とし、「環境」「ウェルネス」を挑戦領域とする5つの事業機会において価値創出を目指しています。また、AIがドライブする市場変化を捉え、生産能力の増強やサプライチェーンの強靭化への投資、およびDXの推進による事業プロセスの変革に取り組んでいます。
* 戦略投資枠の設定(環境投資、技術獲得、ITインフラ強化など)
* 株主還元におけるDOE目標の引き上げ(5%目標)
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「組織・人的資本」を経営資本の中核と位置づけ、「個と組織の好循環」モデルの実現を目指しています。「ダイナミックな適所適材」として、事業や機能、国を超えた多様な経験機会を提供し、人材ポートフォリオの活用を進めます。また、「未来変革リーダーの育成」として、次世代経営リーダーやモノづくり人材、DX人材の育成を強化しています。さらに、社是への共感を基盤としつつ、多様な個の力を活かす組織風土の醸成に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 40.1歳 | 14.1年 | 8,031,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 4.0% |
| 男性育児休業取得率 | 72.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 64.5% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 63.7% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 75.9% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員エンゲージメント肯定回答比率(67%)、海外間接部門従業員の他拠点での勤務経験比率(目標達成に向け取り組み中)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) グローバルでの事業展開
海外売上収益比率が90%を超えており、各国の政情や法規制、地政学リスクの影響を受けます。特に中華圏が連結売上収益の約50%、生産高の約20%を占めており、中国情勢や米中の関税措置等が経営に直接・間接的な影響を与える可能性があります。これに対し、サプライチェーンの複線化や生産拠点の多極化を進めています。
■(2) 為替変動
グローバル展開により、業績が為替変動の影響を大きく受けます。特に米ドルに対する円高は減益要因となり、1円の円高で年間約45億円の営業減益影響があると試算されています。販売価格への反映や為替予約によるヘッジを行っていますが、急激な変動や長期間の円高は業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 当社製品の需要変動
エレクトロニクス製品の需要は世界経済情勢に左右されやすく、部品需要が実需と乖離して増幅される傾向があります。特にコンデンサが売上の約半数を占めるため、特定製品への依存度が高い構造です。事業領域の分散や生産能力の柔軟な調整、DXによる効率化で対応していますが、予測を超えた需要変動は機会損失や余剰資産のリスクとなります。



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