【20年3月期】パナソニック、3期ぶり減収減益 構造改革を進めるも道半ばで光見えず

【20年3月期】パナソニック、3期ぶり減収減益 構造改革を進めるも道半ばで光見えず

低収益体質からの脱却を目指すパナソニック。2020年3月期は新型コロナの影響で全てのセグメントで減収となりました。欧州家電事業の構造改革や半導体事業の売却など大規模なリストラを行っていますが、テレビ事業や車載事業も黒字化せず、道半ばで光は見えていません。財務諸表などを基に会社の現状と課題を整理します。


損益計算書(PL):3期ぶりの減収減益、営業利益率は3%台に悪化

パナソニックの2020年3月期決算は、売上高は前期比6.4%減の7兆4906億円、営業利益は同28.6%減の2938億円で減収減益でした。

売上原価は前期比6.9%減の5兆3396億円に抑制。減収に追いつかず売上総利益は同5.1%減の2兆1510億円に減少したものの、粗利率は同0.4pt増の28.7%とわずかに改善しています。

販管費は前期比0.1%増の1兆8573億円とやや増加。その他の損益は前期から774億円減少して71億円に。これは前期に一時益が発生したためで、今期は事業譲渡益1226億円と事業構造改革費用1155億円が計上されています。

これらにより、営業利益率は前期比1.2pt減の3.9%に悪化しました。子会社再編に伴い法人税は減少したものの、営業利益が大幅に減少したことにより、親会社株主に帰属する当期純利益も前期比20.6%減の2257億円と大幅減となっています。

なお、パナソニックは、2017年3月期から米国会計基準(SEC基準)から国際会計基準(IFRS)に変更しており、今期からIFRS16号「リース」を適用しています。

2021年3月期の業績予想については、新型コロナウイルス感染拡大による影響の不確実性が高いため、未定とのことです。

セグメント分析:全てのセグメントが減収、車載事業は赤字拡大

パナソニックは、生活家電をはじめ住宅設備や車載機器など幅広く手掛けており、子会社582社、関連会社72社で構成されています。

報告セグメントは、今期より従来の「オートモーティブ&インダストリアルシステムズ」が「オートモーティブ」「インダストリアルソリューションズ」に分割され、「エコソリューションズ」が「ライフソリューションズ」に名称変更されました。

  • アプライアンス(AP):家電(薄型テレビ、冷蔵庫、洗濯機、美・理容器具、電子レンジ、オーディオ機器、ビデオ機器、掃除機、炊飯器等)、空調関連製品(エアコン、大型空調等)、コールドチェーン(ショーケース等)、及びデバイス(ナノイー、メーターデバイス、燃料電池等)の開発・製造・販売
  • ライフソリューションズ(LS):照明器具、配線器具、ホームオートメーションシステム、水廻り設備、内装建材、 換気・送風・空調機器、住宅・街づくり、電動アシスト自転車等
  • コネクティッドソリューションズ(CNS):「航空」「製造」「エンターテインメント」「流通」「物流」「パブリック(公共)」分野向け機器の開発・製造・販売、並びに、システムインテグレーション・施工・保守・メンテナンス、及び、サービスを含むソリューションの提供
  • オートモーティブ(AM):次世代コックピットシステム、カーナビゲーション、ETC車載器、車載カメラ、車載充電システム、電動コンプレッサ等の開発・製造・販売
  • インダストリアルソリューションズ(IS):電子部品、メカトロ・制御デバイス、電子材料、半導体、液晶パネル、モータ、一次電池、二次電池等の開発・製造・販売
  • その他:原材料の販売等上記に該当しない事業

なお、ライフソリューションズセグメントに属していた子会社の「パナソニックホームズ」は、トヨタ自動車との間で設立した合弁会社「プライム ライフ テクノロジーズ」への移管により、2020年1月7日に非連結化されました。

出典:2019年度決算概要

2020年3月期は、新型コロナウィルス感染拡大の影響やパナソニックホームズの非連結化などにより、全てのセグメントで減収となりました。

売上高構成比(セグメント間取引含む)は、家電などのアプライアンスが30.1%の2兆5926億円で最も多く、次いで照明器具などのライフソリューションズが22.2%の1兆9125億円、オートモーティブが17.2%の1兆4824億円、インダストリアルソリューションズが14.9%の1兆2827億円、コネクティッドソリューションズが12.0%の1兆357億円、その他が3.6%の2954億円でした。

調整後営業利益は、ライフソリューションズが981億円、次いでコネクティドソリューションズが762億円、アプライアンスが771億円、インダストリアルソリューションズが376億円、その他が97億円で、オートモーティブは305億円の赤字でした。

営業利益は、ライフソリューションズが大幅に増えていますが、これは主に、パナソニックホームズの移管に伴い住宅関連事業の譲渡益が発生したためです。

他のセグメントでは減益となっており、アプライアンスは欧州でテレビやデジタルカメラの販売が苦戦したほか構造改革費用を計上したため、インダストリアルソリューションズは半導体事業の売却により減損損失が発生したため。オートモーティブも車載電池の開発費増加やのれんの減損などによるものです。

売上高調整後営業利益率は、コネクテッドソリューションズが7.4%と最も高く、赤字のオートモーティブを除いて利益率が最も低いのは、アプライアンスとライフソリューションズの2.7%。インダストリアルソリューションズで2.9%です。

出典:2019年度決算概要

キャッシュフロー計算書(CF):減収減益だが営業CF大幅増

2020年3月期の営業CFは前期の2.1倍となる4303億円。税引前当期利益は前期から627億円減少したものの、運転資本が改善したことや、IFRS第16号の適用に伴いリース料の大部分を財務CFに振り替えたことにより営業CFは大幅に増加しました。

これに伴い、売上を通じて現金を稼ぐ力を測る営業CFマージンも前期比3.2pt増の5.7%に改善しています。ただし電気機器業界の平均6.3%には届いていません。

投資CFはマイナス2061億円で、マイナス額は前期比6.6%増。設備投資の抑制や事業譲渡に伴う収入があったものの、リース債権の回収額が前期と比較して減少したためです。

これらにより、フリーCFは前期の21.8倍となる2242億円と大幅に増えています。

財務CFは482億円で、前期のマイナス3418億円からプラスに転じました。主に、総額約2700億円の米ドル建社債及び1000億円の国内社債を発行したためです。

これらの結果、現金及び現金同等物の期末残高は1兆165億円で、前期から2442億円増えており、資金は潤沢です。

貸借対照表(BS):有利子負債残高が大幅に増加

2020年3月期末の資産合計は前期比3.4%増の6兆2185億円でした

流動資産は前期比4.9%増の3兆4358億円で、主に、社債の発行により現金が増加したことや、半導体事業の売却に伴い売却目的で保有する資産が増加したことによるものです。固定資産は同1.6%増の2兆7827億円で、主にトヨタ自動車との間で合弁会社を設立したことに伴い持分法で会計処理されている投資が増加したことや、IFRS第16号適用に伴い使用権資産が増加したことによるものです。

流動負債は前期比12.5%減の2兆6161億円。主に、短期負債及び一年以内返済長期負債の減少や営業債務の減少によるものです。固定負債は同53.9%増の1兆4465億円。主に、社債の発行による長期負債の増加やIFRS第16号適用に伴うリース負債の増加によるものです。

これにより、有利子負債残高は前期比47.3%増の1兆4713億円と大幅に増加。株主資本に対する比率は73.6%と100%を下回っているものの、比率が上昇しています。

純資産合計は前期比3.4%増の2兆1559億円でした。

短期の支払能力を測る流動比率は前期比21.8pt増の131.3%。流動比率は一般に120%以上であれば安全とされ、安全性に問題はありません。

長期の支払能力を測る固定比率は前期比4.0pt減の139.2%。固定比率は低いほどよく、100%を超えると借入によって固定資産を購入していることになります。パナソニックは生産設備などの有形固定資産が多いため、固定比率が高くなっています。

長期的視点での財務安全性を測る株主資本比率は前期比0.3pt増の32.1%。株主資本比率は、業種によっても異なりますが一般に30%で安全とされ、安全ラインは超えているものの優良企業とされる50%には届いていません。

投資分析:ROEは10%を超える高水準

2020年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益は前期比20.6%減の2257億円でした。

これに伴い、ROE(自己資本利益率)は前期比4.2pt減の11.5%に悪化しましたが、電気機器業の業界平均4.2%を大きく上回っています。ROA(総資産利益率)は同0.9pt減の3.7%で、こちらは業界平均の5.3%を下回っています。

EPS(1株当たり利益)は前期比20.6%減の96.8円。BPS(1株当たり純資産)は純資産の増加により同4.4%増の856.6円となっています。

配当性向は前期比6.4pt増の31.0%に改善し、上場企業平均の約30%を上回りました。今期の配当金は前期と同額の30.0円で、2021年3月期の配当額は未定となっています。

まとめ:旧態依然とした事業構造から脱却できるか

パナソニックの株価は、2019年8月15日には787.7円の安値を付けていましたが、その後上昇し、半導体事業売却や第3四半期決算での増益の発表などにより、2020年2月6日には1264円まで上がりました。

しかし、2月後半からは新型コロナウイルス肺炎による世界同時株安の影響で急落し、3月23日には691.7円の安値に。その後反発して株価は800円台まで回復。4月は横ばいが続いたものの、5月18日の本決算後から上がり始め、6月9日には1017.5円まで上昇しました。現在は900円台を推移しています。

売上高は依然として旧家電や旧電工といった分野が多くを占めており、ゲームやソフト、金融といった分野を取り込みながらグローバルな複合企業に変身を遂げたソニーと比べると、かなり旧態依然とした事業にとどまっている印象が強くあります。利益率も低水準です。

とはいえ、20年3月期は、パナソニックホームズの移管やアプライアンスの欧州における構造改革、インダストリアルソリューションズにおける半導体事業の売却など、大規模なリストラを行っています。トヨタ自動車とは、車載用角形電池と街づくりで合弁会社を設立しています。

今後の取り組みについて、テレビ事業は21年度の赤字解消を目指すとしており、固定費改善、協業先との提携、地域を絞った販売などを実施する計画です。車載事業も黒字化に向け、車載機器の開発費抑制、円筒形車載電池の増販、生産性改善といった収益改善に取り組んでいくとしています。

しかし、2021年3月期の第1四半期は、新型コロナの影響で全てのセグメントにおいて国内外で様々な需要が減少するほか、工場停止によるマイナス影響も出てくる見通しとなっており、厳しい状況は続くとみられます。

出典:2019年度決算概要

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