「ローム」という企業をご存知でしょうか。一般知名度でいうと、京都以外ではあまり聞いたことがないかもしれませんが、京都では「ロームイルミネーション」で有名な企業です。ローム本社の敷地に面した佐井通り、通称春日通り沿いの並木道を中心に、86万個もの電球を点灯する京都市最大級のイルミネーションで、2018年で20回目を迎えました。
同社は半導体に携わる人ならば、知らない人はいないほどのメーカーで、とくに「カスタムLSI」と「SiC」を使ったパワー半導体で有名です。カスタムLSIとは、顧客の個別の目的に合わせて開発したチップのことで、重要な情報を預けることになるため発注に非常に神経を使う商品です。その点ロームは、技術力や蓄積されたノウハウはもちろんのこと、セットメーカー傘下の半導体メーカーではなく独立系で、秘密漏洩の恐れが低いことが評価され、多くの受注に成功してきました。
一方SiCとは、シリコンに炭素を合わせた半導体素子で、従来のものより電気制御がしやすい特徴があります。ロームは、この省エネにも結びつくSiCを使ったパワー半導体の量産を世界で最初に始めた半導体メーカーでもあるのです。
またロームは年収が高いことでも有名で、3000社を超える上場企業の中でも常に上位に位置しています。
では一体どれくらい高いのか、高い理由はなにか、年収の高さ以外のメリットやデメリットはあるのかなどに迫っていきましょう。
ロームの平均年収は789.1万円
それでは、はじめにロームの平均年収について見ていきます。ロームの平均年収は、ロームの有価証券報告書によると、789.1万円です。キャリコネに寄せられた給与明細から算出したローム年代別年収レンジは、20歳代で460〜510万円、30歳代で650〜700万円、40歳代で810〜860万円となっています。男女あわせた民間の正規雇用者の平均年収は495.7万円(国税庁・令和2年分民間給与実態統計調査結果)ですから、それと比較しておよそ1.6倍の額です。
■ロームの平均年収推移
決算月 | 平均年収 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 従業員数 |
---|---|---|---|---|
2022年3月期 | 789.1万円 | 41.2歳 | 14.9年 | 3546人 |
2021年3月期 | 708.9万円 | 40.9歳 | 14.7年 | 3448人 |
2020年3月期 | 720.7万円 | 40.2歳 | 14.9年 | 3215人 |
2019年3月期 | 725.2万円 | 39.9歳 | 14.5年 | 3166人 |
2018年3月期 | 705.3万円 | 39.5歳 | 14年 | 3143人 |
出典:ローム・有価証券報告書
過去5年間の平均年収の推移をグラフと表組みで示しています。
ロームの平均年収は前年を上回り789.1万円でした。
過去5年間では最高額になりました。
ロームの年代別平均年収と中央値
■ロームの年収中央値は30代で669.2万円
続いて年収実態により近い年収中央値を見てみます。20代から50代までの平均年収・平均月収・平均ボーナス・年収中央値をシミュレーションし、表にまとめました。
年代 | 平均年収 | 平均月収 | 平均ボーナス | 年収中央値 |
---|---|---|---|---|
20代 | 484.3万円 | 31.3万円 | 88.5万円 | 435.87万円 |
30代 | 669.2万円 | 42.8万円 | 122.4万円 | 602.28万円 |
40代 | 831.6万円 | 52.9万円 | 152.2万円 | 748.44万円 |
50代 | 983.2万円 | 62.3万円 | 180万円 | 884.88万円 |
※キャリコネの口コミ、有価証券報告書、厚労省・経産省・国税庁発表の調査資料を元に、編集部で独自に算出
ロームと競合他社の平均年収を比較
ロームの競合や同業界であるオムロン、TDK、太陽誘電、日東電工、村田製作所、アルプスアルパインの7社で平均年収を比較します。
各社の最新有価証券報告書に記載されている額は、ロームが789.1万円、オムロンが849.7万円、TDKが782万円、太陽誘電が741.4万円、日東電工が805万円、村田製作所が797.6万円、アルプスアルパインが726.5万円です。
この7社の中で最高額はオムロンの849.7万円で、最低額がアルプスアルパインの726.5万円。その差はおよそ124万円で、かなりの差があります。
この比較企業の中ではロームは4番目に位置します。
社名 | 平均年収 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 従業員数(単体) | 売上高 |
---|---|---|---|---|---|
オムロン | 849.7万円 | 45.5歳 | 16.7年 | 4610人 | 3109.89億円 |
日東電工 | 805万円 | 40.5歳 | 13年 | 6091人 | 5174.58億円 |
村田製作所 | 797.6万円 | 40.1歳 | 14.3年 | 9771人 | 12334.64億円 |
ローム | 789.1万円 | 41.2歳 | 14.9年 | 3546人 | 3841.81億円 |
TDK | 782万円 | 43.4歳 | 18.3年 | 5719人 | 4203.79億円 |
太陽誘電 | 741.4万円 | 42歳 | 17.8年 | 2878人 | 3127.8億円 |
アルプスアルパイン | 726.5万円 | 43.8歳 | 17.7年 | 4075人 | 4971.57億円 |
ロームの競合企業の年収についてはこちらの記事をご覧ください
ロームの年収が高い理由
■半導体デバイス売上が90%
ロームの平均年収が高い背景には、前述の「市場で選ばれる独自の技術」を多く持っていることが第一にあります。2018年3月期の品目別売上比率ではLSIが47%、半導体素子が36%、モジュールが10%と半導体デバイスが90%以上も占めています。また通期で増収増益を達成し、営業利益の対売上比率が14.4%の高水準であることも、平均年収を押し上げている一因といえるでしょう。
さらに、日本国内の民生製品や産業用機械、自動車市場においてもロームの独自の技術が重宝され、好調な需要を維持しています。中でも注目すべきは、自動車市場におけるSiCへの期待の大きさです。自動車メーカー最大手のトヨタ自動車は、次世代の電気自動車においてSiCの高い存在価値を認め、ガソリンやエンジンと同じくらい重要なものと評価しています。同じく大手の日産自動車では燃料電池車X-TRAIL FCVにSiCの利用に向け走行実験を、またHondaの研究開発機関である本田技術研究所では、ロームとともにSiC素子を使ったパワー・モジュールの試作に乗り出しているのです。ちなみにロームは、電気自動車の急速充電器用SiCにおいて、すでに世界シェア8割を獲得していることもここに付け加えておきましょう。
以上のことから、市場で選ばれる独自の技術や世界初の試みが、高い年収につながっていることが明らかです。
ロームの給与制度
■賃金上昇は緩やかでも主任で700万円
30歳前半までの給与は、業界のなかでも高い水準にあります。ただし30歳後半以降になると、最低でも課長クラスに昇進をしなければ、なかなか給与が上がっていかないようです。課長になるには、やはり個人の頑張りだけではなく、上司の評価が大きく影響するとみられます。仮に目に見えた成果を上げることができず課長にはなれなくても、時期がくれば主任までは順当に上がると考えてよいでしょう。ちなみに主任級の年収は700~750万円で、ちょうど平均年収と同じくらいになります。
またロームでは、年に一度社長賞という成果に基づいた賞があるようです。金賞300万円、銀賞100万円、銅賞50万程度が受賞した部署に贈られ、グループリーダーの采配のもと分配されます。これらも年収に差をつける要素といえるでしょう。
キャリコネに寄せられた給与明細を見ると、世代間での違い、同年代・同職種なのになんでこんなに差が生まれるのかの理由がチェックできます。
ローム社員の給与明細(キャリコネ)
30代になると20代の頃の何と1.5倍以上に!
20代・デジタル回路設計(非管理職)の 給与明細
30代・デジタル回路設計(非管理職)の 給与明細
インセンティブの存在がこれほど大きいとは!?
20代・研究開発・インセンティブ賞与あり(非管理職)の 給与明細
20代・研究開発・インセンティブ賞与なし(非管理職)の 給与明細
ロームで働く上での懸念点・課題
■海外で需要喚起できるか
懸念点を挙げるとすれば、ロームの特色であるカスタムLSIゆえの難しさといえるでしょう。特注品はロームの強みである反面、営業商材としては難易度が高くなります。既存品とは異なり、顧客とじっくり向き合いニーズを的確につかみ取る能力や、それを製品づくりにしっかり反映させていくセンスなどが必要とされるでしょう。
またロームのもう一つの懸念点としてあるのは、海外売上比率の33%という数値です。JETROのデータでは日本企業の海外売上比率平均が56.5%ですので、その低さがよくわかります。2008年秋のリーマンショック以降、割高でも特注品にこだわっていた国内メーカーもコスト削減に乗り出さざるを得なくなり、こぞって標準品の採用を増やしています。ロームの強みである特注品の割合は減少しているため、今後海外売上比率をいかに高められるかが重要になってくるでしょう。
ロームには年収以外にメリットはある?
ここまでロームの年収面を見てきました。ただ就職先、転職先として年収の高さだけで決めることはできません。その他にメリットは無いのでしょうか?
ロームでは現在、さまざまな制度の見直しを進めています。まずは欧米顧客と取引する部署を対象に時差勤務を導入し、午前8時15分の始業時間を午前6時から午前10時15分の間に変更することを可能としました。また、介護や配偶者の転勤などによる休職を最長2年間まで認めたり、離職した場合でも5年以内なら再入社できるようにしたりするなど、社員がライフスタイルの変化に合わせて長く働き続けられる土壌づくりに注力しています。
一方の技術面での切り札は、やはりSiCを用いたパワー半導体です。富士経済のパワー半導体市場の調査によると、中国での需要増加などの影響で2017年は2兆7192億円規模で、2030年には4兆6798億円になると予測されています。さらなる新技術拡大に向け、技術力だけでなく顧客に寄り添うソリューション営業力もポイントとなるでしょう。今後の展開から目を離せない企業であることは間違いありません。
結論的には、努力や覚悟は必要ですが、就職・転職先として素晴らしい企業であるといって問題ないでしょう。
出典・参考
厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」「2019年国民生活基礎調査」
経済産業省「2021年企業活動基本調査速報-2020年度実績-」
国税庁「令和2年分民間給与実態統計調査」
マイナビ「2022年版 業種別 モデル年収平均ランキング」